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たまねぎとはちみつ

冬(2)

「女子ってさ、ひとりでいるのがきらいだよな。トイレも友だちと行くもんな」
 ばかにしている口ぶりではなかったものの、千春は少しむっとした。ひとりではなんにもできない、と暗に言われたような気がしたのだ。
「おとなだって、さびしくなるときはあるんじゃない?」
「まあ、そうかもしれないけど」
 俊太がノートに〈おじさんにつきそう〉と書き入れた。
「おれは、おじさんはさびしいっていうより気まずいんじゃないかと思う」
「気まずい?」
「仕事が忙しすぎて、子どものことは後まわしになってたんだろ。悪かったって思ってるんじゃないかな。うちの親もときどきおれにあやまってくるもん、仕事のせいで学校の行事に出られなくなったりすると」
 考え考え、俊太は言う。
「これまで放ったらかしにしてたのに、今さら会いたいって言い出しにくいのかも」
「なるほどね」
 以前、千春のお母さんと会ったときに、後悔しているとおじさん自身も言っていた。娘といっしょに過ごす時間があまりなかった、もったいないことをした、と。
「だったら、おじさんを励ましてあげればいいんじゃないかと思ったんだ。向こうは気にしてないはず、とか、会えたらきっと喜ぶよ、とか、そんな感じでさ」
 けど、と俊太は口ごもり、ペンをくるりとまわした。
「よく考えたら、あんまり意味ないかもな。おじさんがどう思われてるのか、結局おれらにはわかんないし」
「そうだね」
 千春も同感だった。杉本さんのほうも父親に会いたいと考えてくれているかどうか、千春たちには判断できない。勝手にそれらしいことを言うのは無責任だろう。
「杉本さん、優しそうだったし、追い返したりはしなさそうだけどな」
「そうだよね」
「いや、でも」
 俊太が急に顔をしかめた。
「優しそうな女は要注意なんだよな」
「要注意?」
「らしい。兄ちゃんがよく言ってる。ああもう、わかんねえなあ」

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  • 瀧羽麻子

    瀧羽麻子

    1981年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。著書に『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』(小学館)『松ノ内家の居候』(中央公論新社)『いろは匂へど』(幻冬舎)『ぱりぱり』(実業之日本社)『サンティアゴの東 渋谷の西』(講談社)『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』(集英社)など。

    写真撮影/浅野剛

今日の1さつ

絵の”ニッコリ”した表情が好きなようです。鳥の親子の場面が一番反応がありました。(0歳・お母さまより)

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