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たまねぎとはちみつ

冬(2)

 月曜日と同じベンチに、俊太はすでに座っていた。ひざに例のノートを広げ、腕組みをしてなにやら考えこんでいる。
「ごめん、お待たせ」
 ぶあつくなった落ち葉のじゅうたんを踏みしめて、千春は俊太に近づいた。
 3日のあいだに、遊歩道の木々は完全に葉を落とし、とがった枝がむきだしになっている。見た目は寒々しいけれど、陽ざしをさえぎるものがなくなったおかげで、直射日光のあたるベンチの座面は、前よりもあたたかく感じるくらいだった。
「長谷川は、なんか思いついた?」
 腰を下ろした千春に、俊太はさっそくたずねてきた。おじさんたち父子をうまく対面させるために、千春たちがどう手伝えばいいか、それぞれ考えをまとめてくる約束だったのだ。
「うん、ひとつ」
 千春はためらいがちに答えた。正確にいえば、ひとつ「だけ」だ。しかも、あんまり自信はない。
「なになに?」
 俊太がペンを片手に身を乗り出してくる。ますます腰がひけつつも、千春はしかたなく口を開いた。
「おじさんについていってあげるのは、どうかな?」
「ついていくって、あの家に? おれたちが?」
 きょとんとして聞き返された。俊太にとっては予想外の意見だったらしい。
「おじさん、なんかさびしそうだったから。誰かといっしょのほうが話しかけやすいんじゃないかと思って」
 いちょうの陰にひっそりとかくれていたおじさんの心細げな背中を、千春はいまだに忘れられない。
「さびしそうだった?」
 俊太は相変わらずぴんとこないようで、首をかしげている。
「どこが?」
 そう言われてしまうと、どうしておじさんがさびしそうに見えたのか、千春にもうまく説明できない。表情を確認したわけでも、声を聞いたわけでもなかった。
「なんとなく。おじさん、ひとりぼっちだったし」
「おとなの男が、ひとりだからってさびしがるか?」
 俊太がペンの頭でノートをぺちぺちとたたきながら、千春を見た。

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  • 瀧羽麻子

    瀧羽麻子

    1981年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。著書に『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』(小学館)『松ノ内家の居候』(中央公論新社)『いろは匂へど』(幻冬舎)『ぱりぱり』(実業之日本社)『サンティアゴの東 渋谷の西』(講談社)『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』(集英社)など。

    写真撮影/浅野剛

今日の1さつ

絵がていねいに描いてあり大切に食べてもらいたい野菜たちの気持ちが伝わります。残さず使い切りたいと思いました。いいお話ですね。大人が読んで考えさせられました。(読者の方より)

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