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たまねぎとはちみつ

冬(1)

 月曜日の3時過ぎ、市立図書館の周囲にぐるりとめぐらされた遊歩道には、ほとんど人影がない。
 建物のちょうど真裏にあたるベンチに、千春は俊太とならんで腰を下ろしている。夏休みに、おじさんに連れてきてもらった場所だ。あのときは頭上にみっしりと茂っていた桜の葉っぱがすっかり色づき、ベンチの前にも赤と黄のまじりあった落ち葉のじゅうたんが広がっている。
 放課後、ゆっくり話せるところはないかと考えて、千春が思いついたのだった。学校のどこかだと、誰かに見られてしまうかもしれない。別に悪いことをしているわけではないし、見られても別にかまわないのだが、なんとなく落ち着かない。学校から図書館までも、ふたりばらばらに来た。
 俊太はベンチに座るなり、ノートをひざの上に広げ、先週の仮説を書き直した。〈おじさんはリコンした奥さんに会いにいっている?〉を、〈おじさんはむすめ(すぎ本さん)を見にいっている。〉に。
「おじさん、なんで杉本さんに話しかけなかったんだろう?」
 顔を上げて、千春に言う。
「あのドラマだと、だんなさんは奥さんをじゃましないように、陰で見守ってるんだよな」
 まだ例のドラマにこだわっているようだ。
「夫婦なら、そういうこともあるかもしれないけどね」
 千春も首をひねった。あの夫は、別れた妻が現在の恋人に疑われたり嫉妬されたりしないようにと気を遣っていた。でも親子なら、父親が娘の前に姿を見せたところで、別に問題はなさそうに思える。
「仲が悪いのかな?」
 千春が言うと、俊太はきょとんとした。
「仲が悪いんだったら、わざわざ会いにいかないんじゃないの?」
「おじさんは会いたいんだけど、あっちがきらってるとか」
「顔も見たくないくらい?」
 それも、なんだか腑に落ちない。
 おじさんは変わっているけれど、根本的にはすごくいいひとだ。あの杉本さんだって、見知らぬ迷子に話しかけてくれるくらいだから、親切で優しい性格なのだろう。実の父親を憎むようなひとには見えなかった。しかもその父は、毎週のように自宅の前まで通うほど、娘に会いたがっているのだ。
「ちゃんと住所も教えてもらってるんだもんな」

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  • 瀧羽麻子

    瀧羽麻子

    1981年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。著書に『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』(小学館)『松ノ内家の居候』(中央公論新社)『いろは匂へど』(幻冬舎)『ぱりぱり』(実業之日本社)『サンティアゴの東 渋谷の西』(講談社)『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』(集英社)など。

    写真撮影/浅野剛

今日の1さつ

2歳のときに出会い、まだ字が読めなかったときも、この本に出てくるフレーズを覚えてしまう程、大好きです。このシリーズの3冊は、何度も読んでいて、とても大切にしています。前・後・横から見られて、細部の説明もあり、実際に車が働く姿が思い浮かぶような気がして、親子で楽しい絵本です。(3歳・ご家族より)

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