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たまねぎとはちみつ

秋(7)

 翌日の正午に、千春は俊太と駅前で待ちあわせた。
 先週、おじさんがバス停にいたのは、1時前だったという。今回も同じくらいの時間ではないかと俊太が予想し、早めに行って見張ることになったのだった。
 尾行している途中でおじさんに気づかれないように、できるだけふだんとちがう雰囲気で、かつ目立たない格好をする約束だった。千春は思案した末、黒い薄手のコートに、ジーンズを合わせてみた。どちらも数年前に買ったもので、最近は着ていない。さらに、いつもは結んでいる髪を下ろし、クローゼットの奥から発見した、つばのついたキャスケット帽を目深にかぶった。
「いいんじゃない。ぱっと見、長谷川ってわかんないよ」
 千春の全身をながめまわし、俊太は満足そうに言った。
 俊太が着ている紺色のジャンパーと、茶色いコーデュロイのズボンは、お兄さんのおさがりだという。どちらもぶかぶかで、袖と裾を折り返している。サイズが大きすぎて、まだ着ていなかったらしい。
「それもお兄さんの?」
 白いニット帽を指さして、千春はたずねた。
「いや、これは姉ちゃんの。こっそり借りてきた」
 おじさんがやってこないか用心しつつ、ふたりでバスの路線図を見上げた。先週おじさんが乗ったバスは、駅を起点として、街の北部、山あいのほうをめぐるようだ。
「長谷川はこのへん行ったことってある?」
「ない」
 図書館も、時折お母さんといっしょに行くスーパーマーケットも、海も、駅から見て南側にある。
「おれも」
 子どもふたりで見知らぬ場所へ行くなんて、大丈夫だろうか。あらためて心配になってきた千春をよそに、俊太はうきうきと言う。
「ああ、なんか楽しみになってきた」
 その後は、バス停の見える、駅前広場のベンチで時間をつぶした。駅の出口から大勢の人々が吐き出され、また吸いこまれていく。休みの日だからか、千春たちくらいの年齢の子どももけっこう通りかかる。
 広場の時計が1時を指しても、おじさんは現れなかった。1時5分になっても、10分になっても。
「おかしいなあ」

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  • 瀧羽麻子

    瀧羽麻子

    1981年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。著書に『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』(小学館)『松ノ内家の居候』(中央公論新社)『いろは匂へど』(幻冬舎)『ぱりぱり』(実業之日本社)『サンティアゴの東 渋谷の西』(講談社)『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』(集英社)など。

    写真撮影/浅野剛

今日の1さつ

2歳のときに出会い、まだ字が読めなかったときも、この本に出てくるフレーズを覚えてしまう程、大好きです。このシリーズの3冊は、何度も読んでいて、とても大切にしています。前・後・横から見られて、細部の説明もあり、実際に車が働く姿が思い浮かぶような気がして、親子で楽しい絵本です。(3歳・ご家族より)

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