icon_twitter_01 icon_facebook_01 icon_youtube_01 icon_hatena_01 icon_line_01 icon_pocket_01 icon_arrow_01_r

たまねぎとはちみつ

秋(6)

 今回の俊太の推理も、スパイや刑事ほどではないとはいえ、またしても突拍子のないものだった。
「おじさん、奥さんに会いにいってるんじゃないかな」
 駐車場の入口近くにぽつんと置かれた、色あせたベンチにならんで腰かけると、俊太はおもむろに言った。
「奥さん?」
 おじさんの娘については千春も前にちらっと聞いたけれど、奥さんの話はしてもらったことがない。
 でもよく考えてみれば、子どもがいるということは、おそらく結婚もしているはずだ。海外では単身赴任をしていたようだが、こうして日本に帰ってきたのだから、家族といっしょに暮らしているのだろう。おじさんがどこに誰と住んでいるのかも、これまで話題に上ったことはなく、千春も気にしていなかったけれども。
「だけど」
 当然の疑問が、千春の頭に浮かんだ。
「奥さんに会うのに、なんで変装しなきゃいけないの?」
「会うっていうか、こっそり見にいってるんだと思う」
 俊太が言いなおした。
「こっそり?」
「うん。奥さんも自分に会いたがってくれてるかどうか、自信がないんじゃないかな」
 俊太の言っている意味をのみこむのに、少し時間がかかった。おそるおそる、千春はたずねた。
「おじさん、離婚してるんだ?」
「あれ、知らなかった?」
 まばたきした俊太は、ちょっと得意そうだ。千春はしぶしぶ答えた。
「知らなかった」
「仕事が忙しすぎて、うまくいかなくなったんだって」
 似たような話は、千春も少し聞いた。海外勤務が長く、家族のそばにいられなかったという話だった。
「だけど、おじさんのほうは、きっと奥さんのことをまだ忘れられないんだよ。心配なのかもしれない。だから、向こうに気づかれないように変装して、見守ってるんじゃないかな」

1 2 3 4

バックナンバー

profile

  • 瀧羽麻子

    瀧羽麻子

    1981年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。著書に『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』(小学館)『松ノ内家の居候』(中央公論新社)『いろは匂へど』(幻冬舎)『ぱりぱり』(実業之日本社)『サンティアゴの東 渋谷の西』(講談社)『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』(集英社)など。

    写真撮影/浅野剛

今日の1さつ

2歳のときに出会い、まだ字が読めなかったときも、この本に出てくるフレーズを覚えてしまう程、大好きです。このシリーズの3冊は、何度も読んでいて、とても大切にしています。前・後・横から見られて、細部の説明もあり、実際に車が働く姿が思い浮かぶような気がして、親子で楽しい絵本です。(3歳・ご家族より)

pickup

new!新しい記事を読む