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たまねぎとはちみつ

秋(5)

 2学期は、小学校の行事がもりだくさんだ。
 10月はじめの運動会を皮切りに、月末に音楽会、11月の終わりには図工展もあった。放課後も練習やら準備やらに追われて、千春はしばらくおじさんのお店に顔を出せていなかった。
 図工展もすみ、11月最後の金曜日、千春はひさびさにお店へ足を運んだ。
 おじさんは作業台でせっせとモギーを作っていた。その傍らで、俊太が頬杖をついて作業を見守っている。
 先月、お客さんの家で柿をもぐときに、おじさんは千春たちも連れていってくれた。モギーはなかなか使い勝手がよく、先方にもとても喜ばれていた。収獲した柿をたっぷりおみやげにもらった。よく熟れていて、甘かった。
 その後、モギーの評判はご近所にも広まったらしい。うちの柿ももいでほしいという依頼が、他の家からも続々と入ったそうだ。
「モギーを売ってくれないかっていうお客さんまで出てきてね。柿だけじゃなくて、他の果物にも使えそうだって」
 そこで、初代を改良しつつ、いくつか追加で作ることになった。
「柄を少し細めにして、握りやすくしようと思って」
「いいかも。子どもやお年寄りにも使いやすくなるね」
「うまくできたら、特許もとるか」
「わあ、いいんじゃない?」
 俊太は千春とおじさんの会話には加わらず、黙々とモギーの柄にやすりをかけ続けている。
 千春はおじさんと言葉をかわしつつ、それとなく俊太の顔色をうかがった。いつもなら、こういう話にはまっさきに乗ってきそうなものなのに、どうしたんだろう。柿をもぎにいった日も、ふだんどおり元気いっぱいに騒いでいた。
 かといって、話を聞いていないわけでもなさそうだ。時折、もの言いたげに口を開きかけては、また閉じる。おかゆの周りをぐるぐるまわる、猫みたいに。
「よし、今日はこのへんにしとくか。俊太もありがとう」
 おじさんが手をとめたのは、4時過ぎだった。
 これから、修理の終わったストーヴをお客さんの家へ配達するという。千春と俊太もおじさんといっしょにお店を出て、見送りがてら、軽トラックの停めてある駐車場までついていった。
 おじさんが運転席のドアを開け、乗りこもうとしたところで、無口だった俊太がようやく声を発した。

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  • 瀧羽麻子

    瀧羽麻子

    1981年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。著書に『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』(小学館)『松ノ内家の居候』(中央公論新社)『いろは匂へど』(幻冬舎)『ぱりぱり』(実業之日本社)『サンティアゴの東 渋谷の西』(講談社)『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』(集英社)など。

    写真撮影/浅野剛

今日の1さつ

まだ1歳ですが絵本が好きなので、絵がきれいなものを探していて、気に入り購入しました。いろんな世界のいえがとてもステキで、大人になるまで大切にしたい一冊になりました。たくさん読んであげたいです。(読者の方より)

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