icon_twitter_01 icon_facebook_01 icon_youtube_01 icon_hatena_01 icon_line_01 icon_pocket_01 icon_arrow_01_r

たまねぎとはちみつ

秋(4)

 「また今度」は、なかなかやってこなかった。
 運動会の後、しばらくおじさんと顔を合わせる機会はなかった。千春は何度か学校帰りにお店をのぞいたのに、おじさんがいなかったのだ。ヤエさんがひとりで店番をしているときも、お店が閉まっているときもあった。モギーで柿をとるという約束も、果たされないままになっている。
 千春はそんなに気にしていなかった。
 これまでにも、おじさんが店を空けることはたびたびあった。配達中かもしれないし、お客さんの家で頼まれた仕事を片づけているのかもしれないし、休みをとっているのかもしれない。たまたま千春が行ったときに、それらが重なってしまったのだろう。時間帯にもよるのかもしれない。
 考えが変わったのは、翌週になってからだった。
 その日もおじさんはいなかった。店内は暗く、作業台の上は片づいている。千春が家に帰ろうとしたら、小道のむこうから俊太がやってきた。
「おじさん、またいないの?」
 俊太が顔をしかめた。
「長谷川は、最近会った?」
「ううん。運動会の日以来、一度も」
「おれも。どこ行ってるんだろう? なんか聞いてる?」
「知らない」
 千春が答えると、俊太はぎゅっと眉を寄せた。
「なあ、おかしくない?」
「おかしいって?」
「だって、店もしょっちゅう休んでるらしいよ。ヤエさんが言ってた」
「そうなの?」
 千春が一度ヤエさんと話したときは、ここのところ忙しいみたいねえ、とおっとりと言われた。てっきり、修理の依頼がたてこんでいるのだとばかり思っていた。
 おとなが仕事を休む理由といえば、千春にはひとつしか思いつかない。
「ひょっとして、病気なのかな?」
 心配になって、言ってみた。
「それはないんじゃない? こないだも元気そうだったし」
 俊太からすぐさま否定されて、ちょっと安心する。
「そうだよね」

1 2 3 4

バックナンバー

profile

  • 瀧羽麻子

    瀧羽麻子

    1981年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。著書に『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』(小学館)『松ノ内家の居候』(中央公論新社)『いろは匂へど』(幻冬舎)『ぱりぱり』(実業之日本社)『サンティアゴの東 渋谷の西』(講談社)『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』(集英社)など。

    写真撮影/浅野剛

今日の1さつ

2歳のときに出会い、まだ字が読めなかったときも、この本に出てくるフレーズを覚えてしまう程、大好きです。このシリーズの3冊は、何度も読んでいて、とても大切にしています。前・後・横から見られて、細部の説明もあり、実際に車が働く姿が思い浮かぶような気がして、親子で楽しい絵本です。(3歳・ご家族より)

pickup

new!新しい記事を読む