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たまねぎとはちみつ

秋(1)

 9月になって、2学期がはじまった。
 夏休みの終わりに、お母さんをおじさんとひきあわせて以来、千春は前よりもひんぱんにお店へ足を運ぶようになった。3日にいっぺんくらいは、おじさんと顔を合わせている。
「今日は、どうだった?」
 おじさんにたずねられて、千春は力なく答えた。
「たまねぎ」
「またか?」
 おじさんが片眉を上げた。
「せっかく、いい季節になってきたのにな」
 おじさんは秋が好きらしい。食べものがうまいし、涼しいし、と言いながらも、9月の終わりになっても服装は真夏と変わっていない。半袖のTシャツに、ビーチサンダルをはいている。
 千春だって、秋の食べ物は好きだ。ぶどうも栗も、梨もおいしい。休みのあいだに買ってもらった、長袖のブラウスを着られるのもうれしい。
 それでも千春にとって、秋はゆううつな季節なのだ。
「今日も練習だったのか?」
 おじさんが聞いた。
「うん」
 秋には、小学校の運動会がある。
 千春はもともと運動が大の得意というわけではないけれど、ものすごく苦手でもない。ドッヂボールではたいがい最後のほうまで生き残れるし、50メートル走のタイムをはかったときは、クラスの女子では平均くらいだった。体育の授業も、好きでもきらいでもない。
 でも、運動会は気が重い。
 きっかけは、3年生のときの、クラス対抗リレーだった。1年生から6年生まで、学年ごとに行われ、クラス全員が出場する。1チームにつき、6、7人の走者が、順にトラックを1周ずつ走る。
 千春が走るのは、最後から2番目だった。バトンを受けとったときには、1番先頭だった。
 バトンを握りしめ、千春は夢中でトラックを走りはじめた。がんばれ、がんばれ、とクラスメイトが声をかけてきた。トラックの外側にぐるりと設けられた観覧席に、他学年の子どもたちとたくさんのおとなたちがひしめいていた。

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  • 瀧羽麻子

    瀧羽麻子

    1981年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。著書に『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』(小学館)『松ノ内家の居候』(中央公論新社)『いろは匂へど』(幻冬舎)『ぱりぱり』(実業之日本社)『サンティアゴの東 渋谷の西』(講談社)『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』(集英社)など。

    写真撮影/浅野剛

今日の1さつ

まだ1歳ですが絵本が好きなので、絵がきれいなものを探していて、気に入り購入しました。いろんな世界のいえがとてもステキで、大人になるまで大切にしたい一冊になりました。たくさん読んであげたいです。(読者の方より)

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