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たまねぎとはちみつ

夏(8)

「ねえ、お母さん」
 家に帰ってから、千春はさっそく切り出した。
「あのお店のことなんだけど……」
「あのお店?」
 お母さんが眉をひそめた。
「お母さんと、もう一度話したくて」
「こないだ話したじゃないの」
 とりつく島もない。ひるみそうになるのをこらえて、千春は続けた。
「もう一回だけ、聞いてほしいの」
 お母さんは眉を寄せたまま、まじまじと千春の顔を見つめている。
「お願い」
 千春は頭を下げた。
 おじさんの言葉を思い返す。お母さんはきっとわかってくれるはず。この気持ちは、きっと届く。
「お願いします」
 お母さんが千春の肩に手を置いた。
「わかった。聞かせてちょうだい」
 食卓にお母さんとむかいあって座り、千春はおじさんのことを説明した。このあいだよりも、もっとくわしく。
 発明の手伝いは、ただおもしろいだけじゃなく、理科の勉強にもなる。おじさんが聞かせてくれるいろんな国の話は、社会科の勉強になる。紗希とサナエちゃんの仲がこじれたときは、おじさんに助言をもらったおかげで、うまくとりなすことができた。
「これからは、ちゃんと話すから」
 とも、つけくわえた。
「お店に行くときも、お母さんに言ってからにする」
 お母さんはじっと考えこんでいた。
 それから顔を上げ、千春と目を合わせた。心の奥までのぞこうとしているかのように、まばたきもせずに見すえられて、千春も視線をそらさずに耐えた。
 お母さんがわずかに目を細め、ゆっくりと口を開いた。
「千春がそこまで言うんだったら……」
「ほんと?」
 千春は思わず身を乗り出した。

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  • 瀧羽麻子

    瀧羽麻子

    1981年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。著書に『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』(小学館)『松ノ内家の居候』(中央公論新社)『いろは匂へど』(幻冬舎)『ぱりぱり』(実業之日本社)『サンティアゴの東 渋谷の西』(講談社)『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』(集英社)など。

    写真撮影/浅野剛

今日の1さつ

絵がていねいに描いてあり大切に食べてもらいたい野菜たちの気持ちが伝わります。残さず使い切りたいと思いました。いいお話ですね。大人が読んで考えさせられました。(読者の方より)

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