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たまねぎとはちみつ

夏(5)

 幸運は、残念ながら訪れなかった。
「おじさん、助けて!」
 俊太に呼ばれ、おじさんと千春も岩場のほうへ行ってみた。
 大小の岩でまるく囲まれた入り江は、天然のプールみたいになっている。広さもちょうど学校のプールと同じくらいだ。おじさんも言っていたとおり、岩にさえぎられるおかげで波はない。
 アメーボを装着した俊太は、ほとんど前へ進めていなかった。
 砂浜から勢いをつけて駆けこんでみても、岩の上からそろそろと慎重に足を踏み入れてみても、だめだった。海に入るなり、たちまち体勢をくずし、ぶざまにひっくり返ってしまう。そのたびに、派手な水しぶきが上がった。
「重心が上になりすぎて、バランスが悪いんだな」
 悪戦苦闘を見守りつつ、おじさんがつぶやいた。
「どうしたもんかなあ」
「だめだ。進めない」
 とうとう俊太が海から上がってきた。砂の上に、ぺたりと腹ばいになる。珍しくしょげているようなので、千春もちょっとかわいそうになってきた。
「そんなに落ちこむなって」
 おじさんが腰をかがめ、濡れた髪のはりついた俊太の頭をなでた。
「はじめからうまくいくものなんか、めったにない。これから改良すればいい」
「そうだよね」
 俊太がぴょこんと顔を上げ、勇んでたずねた。
「どう改良する?」
「それは、わからん」
「ええっ」
「まあ、そのうち名案を考えつくかもしれないし」
 俊太は恨めしげに口をとがらせ、両足にはいたアメーボを脱ぎすてた。
「のんきだなあ、おじさんは。がっかりしないの? あんなにがんばって作ったのに」
「がっかり? なんで?」
 おじさんが意外そうに眉を上げた。
「これは貴重な第一歩じゃないか」
「貴重な第一歩?」
 俊太が不服そうに問い返す。

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  • 瀧羽麻子

    瀧羽麻子

    1981年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。著書に『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』(小学館)『松ノ内家の居候』(中央公論新社)『いろは匂へど』(幻冬舎)『ぱりぱり』(実業之日本社)『サンティアゴの東 渋谷の西』(講談社)『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』(集英社)など。

    写真撮影/浅野剛

今日の1さつ

絵の”ニッコリ”した表情が好きなようです。鳥の親子の場面が一番反応がありました。(0歳・お母さまより)

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