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たまねぎとはちみつ

夏(4)

 駐車場の裏手には、こぢんまりとした入り江が広がっていた。色とりどりのレジャーシートやパラソルが、砂浜にぽつりぽつりと間隔をおいて散らばっている。
「穴場なんだ」
 おじさんが得意そうに胸をそらした。
 確かに、千春が毎年家族で行く海水浴場に比べて、ずいぶん空いている。砂浜に寝そべって、日光浴をしているひとが多い。波打ち際では、千春たちよりも小さな子どもが数人、盛大に水をはね散らかして遊んでいる。沖のほうでサーフィンをしている人影も見える。
 三人で手分けして、大量の荷物を砂浜まで運んだ。千春と俊太がしまもようのレジャーシートを広げ、そのかたわらにおじさんが大きなパラソルを立てた。日陰になったシートの上に折りたたみ式のテーブルを出し、立派なクーラーボックスと、ふくらんだコンビニ袋も置いた。
「ねえ、アメーボは?」
「忙しいやつだな。ちょっと待って」
 ひときわ巨大な段ボール箱に、おじさんが手をかけた。
 千春がすっぽり入れてしまうくらい大きな箱からは、続々といろんなものが出てきた。空気の入っていない浮き輪に、同じくぺたんこのゴムボート、それからもちろんアメーボも。
 完成品を、千春ははじめて見た。ボート形の発泡スチロールは、表面がなめらかにととのえられ、以前に比べて格段に靴らしくなっていた。おじさんが説明していたとおり、水かきのような部品がかかとにくっつけてある。
 俊太が手早く洋服を脱いで、水着一枚になった。上半身がTシャツのかたちにくっきりと日焼けしている。
「じゃ、行ってくる」
 奇妙なかたちの靴を両手にひとつずつ持ち、はずむように立ちあがる。
「あそこの、岩がいくつかならんでるへんがいいよ。波がさえぎられるから」
 目の前に広がっている砂浜の、左手のほうを、おじさんが指さした。俊太の肩を励ますようにぽんぽんとたたき、言い添える。
「オオカミの口の中へ!」
 千春には耳慣れない言葉だった。どういう意味だろう。
「くたばれ、オオカミ!」
 はだしになった俊太が、その場でぴょんぴょん跳ねながら叫び返し、海へむかっていちもくさんに走り出した。湿った砂地に、足形のはんこが点々と続いていく。

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  • 瀧羽麻子

    瀧羽麻子

    1981年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。著書に『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』(小学館)『松ノ内家の居候』(中央公論新社)『いろは匂へど』(幻冬舎)『ぱりぱり』(実業之日本社)『サンティアゴの東 渋谷の西』(講談社)『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』(集英社)など。

    写真撮影/浅野剛

今日の1さつ

通院していた助産院でくいつきがよく、月齢の小さいころから見ていました。先日助産院最後の通院の日、たくさんある本棚の絵本からこれを探し出して、やっぱり何度も見ていたみたい。もう赤ちゃんも卒業かな?と思っていたのですが、まだまだこの絵本に魅力を感じている息子に2歳前ですが、買いました。かってよかった…。(1歳 ご家族より)

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