icon_twitter_01 icon_facebook_01 icon_youtube_01 icon_hatena_01 icon_line_01 icon_pocket_01 icon_arrow_01_r

たまねぎとはちみつ

春(8)

「価値観の相違っていうのは、おとなの世界でもよくあるんだ。それが原因でいろんな争いが起きてる。今も昔も、世界中でね」
 日頃は陽気なおじさんに似合わず、うんざりした顔でため息をついている。
「友達どうしのけんかだけじゃない。夫婦が離婚したり、国どうしが戦争をおっぱじめたり」
「せ、戦争?」
「まあ、それは極端な例だけどな」
 千春にもため息が伝染した。そんなにむずかしい話だったのか。
「じゃあ、どうすれば仲直りできるの?」
「きみはどう思う?」
 聞き返されて、頭を整理してみる。
 紗希とサナエちゃんの価値観とやらが食いちがってしまっているのが、問題らしい。ということは、
「どっちかに考えを合わせればいいの?」
「それはむずかしいだろうな」
 おじさんが眉根を寄せた。千春の頭はこんがらがってきた。
「でもさっき、価値観がちがうのが問題だって……」
「原因だって言ったんだ。問題じゃない。問題は、そのちがいを受け入れられない人間がいるってこと」
 おじさんはきっぱりと言う。
「無理やり同じにしなくていい。いや、すべきじゃない。みんな同じじゃ、つまらんよ。ほら、カレーだってそうだろ?」
「へ? カレー?」
「いろんな種類のスパイスを入れるから、味に深みが出ておいしくなる。カレー、作ったことあるか?」
「あるけど」
 去年、調理実習で作った。いろんな種類のスパイスなんか使わなかった。板チョコみたいなかたちのルウを、砕いて鍋に放りこんだだけだ。おじさんのたとえ話は、たまにわかりにくい。
 だけど今は、カレーの作りかたはどうでもいい。とにかく一番知りたいことを、千春はたずねた。
「だったら、やっぱり仲直りは無理なの?」
「いいや、そうとは限らない……たとえばさっきの話だけど、きみはいい学校やいい会社に入りたい?」

1 2 3 4

バックナンバー

profile

  • 瀧羽麻子

    瀧羽麻子

    1981年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。著書に『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』(小学館)『松ノ内家の居候』(中央公論新社)『いろは匂へど』(幻冬舎)『ぱりぱり』(実業之日本社)『サンティアゴの東 渋谷の西』(講談社)『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』(集英社)など。

    写真撮影/浅野剛

今日の1さつ

まだ1歳ですが絵本が好きなので、絵がきれいなものを探していて、気に入り購入しました。いろんな世界のいえがとてもステキで、大人になるまで大切にしたい一冊になりました。たくさん読んであげたいです。(読者の方より)

pickup

new!新しい記事を読む