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たまねぎとはちみつ

春(6)

 千春の声が吹きこまれた看板は、その数日後にできあがった。
 はじめにおじさんが説明してみせたのとは、ちがうかたちにしあがった。きっかけは、千春のひとことだった。
 四角い箱の表面にならんだふたつの穴が、
「目に見える」
 と、なにげなく言ったのだ。
「確かに、そう言われてみれば」
 おじさんも同意した。もう一度じっくりと箱を眺め、さらに思い浮かんだことを、千春は続けて口にした。
「ロボットの頭みたい」
「いいね、それ」
 おじさんが声をはずませた。
「きみ、なかなかユニークだな。センスがある」
 千春はきょとんとした。
「ええと、ユニークはわかるか? 個性的ってこと」
 おじさんがつけ足した。解説されるまでもなく、千春にも意味はわかっていた。ほめられているということも。
 うれしいというより戸惑ってしまったのは、個性的、と言われたことがこれまでになかったからだ。まわりのおとなたちからはよく、おっとりしているとか、のんびりているとか、ぼんやりしているとか、言われる。個性的、ではなくて。
 千春自身も、自分のことを個性的だとは思わない。人目をひくような特徴も、並はずれた特技もない。学校の成績はちょうど平均くらいで、背は高くも低くもなく、やせても太ってもいない。ついでにいえば、顔も普通だ。
 特に不満はない。別に注目されたくもない。たくさんの視線を浴びると、頭がかっと熱くなる。口がからからに乾き、声も出なくなる。
 それでも、路地の入口に置いたロボット型の看板が、お客さんからも好評だとおじさんに聞かされたときには、素直にうれしかった。きみのおかげだよ、と何度もくり返されて、ちょっと照れくさかった。

 学校の帰りに、千春は時折おじさんの店に立ち寄るようになった。
 家ではあいかわらず、お店のことは話しそびれている。お母さんもあやしんではいないようだ。四年生のときから、紗希やほかの子たちといっしょに遊んだり、図書室に寄ったりして、家に帰る時間はまちまちだった。

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  • 瀧羽麻子

    瀧羽麻子

    1981年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。著書に『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』(小学館)『松ノ内家の居候』(中央公論新社)『いろは匂へど』(幻冬舎)『ぱりぱり』(実業之日本社)『サンティアゴの東 渋谷の西』(講談社)『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』(集英社)など。

    写真撮影/浅野剛

今日の1さつ

絵がていねいに描いてあり大切に食べてもらいたい野菜たちの気持ちが伝わります。残さず使い切りたいと思いました。いいお話ですね。大人が読んで考えさせられました。(読者の方より)

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