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たまねぎとはちみつ

夏(2)

 ばらばらばら、と小石が落ちてくるような音がした。
 おじさんが万博の話をやめ、三人は外を見やった。いつのまにか、表がどんよりと暗くなっている。
「げ。雨だ」
 俊太が窓に駆け寄って、顔をしかめた。
「さっきまで晴れてたのに」
「そういや、夕方から天気がくずれるって言ってたな。ふたりとも、あんまりひどくならないうちに、帰ったほうがいいかもしれない」
 おじさんにうながされて、千春も椅子から立った。
「そろそろ本格的に梅雨入りかもな」
 今朝、お母さんもそう言っていた。すすめられたとおりに折りたたみ傘を持ってきて、正解だった。
 お母さんは毎朝、テレビの天気予報をものすごく熱心に見る。千春に傘を持たせるか、コートを着させるか、スカートの下に靴下をはかせるかタイツをはかせるか、判断するためだ。
「やべえ、おれ、傘持ってない」
 俊太のお母さんは、ちがうんだろうか。それとも、男の子だし、親の言うことなんか聞かないのか。
「あ、そうだ」
 俊太が急に顔をほころばせた。
「おじさん、あれ貸して」
「またか?」
 おじさんがしぶい顔をする。
「まだ実験段階なんだけどなあ」
「大丈夫、大丈夫。こないだもちゃんと使えたし」
「しょうがないな」
 おじさんがしゃがんで作業台の下をごそごそと探りはじめた。身を起こしたときには、右手に白い棒を握っていた。
「やったあ」
 俊太が棒を受けとって高くかかげた。自分のものでもないくせに、自慢げに胸を張ってみせる。
「いいだろ。カザだよ」
 千春はあっけにとられ、俊太の手もとに見入った。

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  • 瀧羽麻子

    瀧羽麻子

    1981年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。著書に『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』(小学館)『松ノ内家の居候』(中央公論新社)『いろは匂へど』(幻冬舎)『ぱりぱり』(実業之日本社)『サンティアゴの東 渋谷の西』(講談社)『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』(集英社)など。

    写真撮影/浅野剛

今日の1さつ

乗り物+ストーリーの本を探していたらこの本に出会いました。ストーリーも絵もリアルで、孫も食いついて見て聴いて、リアクションも大いにある本です。(2歳・ご家族より)

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