icon_twitter_01 icon_facebook_01 icon_youtube_01 icon_hatena_01 icon_line_01 icon_pocket_01 icon_arrow_01_r

北の森の診療所だより

第17回

11月 保護色は、自然が与えたプレゼント?

 11月。小春の日が続いたと思っていたら雪。そして木枯らしが吹き、ある日ぽかーんと、また春が顔をだす。そのたびに大地は残った緑の気配を微風に流し、一面を真っ白に化粧、そしてまた枯れ野の風情を押しつける。下着を一枚増やし、次の朝は減らしたりと、私は変化に追いつけないでいる。忙しい。


 裏山の小道を歩いていたら、倒木の陰でユキウサギの姿を見つけた。あたりは枯れ野。本人は隠れているつもりらしいが、体は「私はここにいます」と主張している。落ち葉に染まった大地の中に真っ白になった体表が困っていた。換毛が早すぎたのではない。根雪になるのが遅すぎたというべきであろう。本来この動物にとって、体毛の晩秋の白化は保護色となり、自然が与えたプレゼントだと考えられているが、これでは逆である。枯れ野に白色では様にならない。かわいそうだ。


 何年か前、倒木の上でイイズナイタチと遊んだことがある。その年も根雪になるのが遅く、待てません、とばかりにさっさと冬の衣装に衣替えしたこの小さな生きものが、私に見つかってしまった。いくら小さくても目立ってしまったのである。


 自然はそこに住む生きものにとってやさしい、という人がいるが、そうとは限らないと、私はそのときもつぶやいていた。でも私は楽しんだのだから、やはりやさしいといっていいのかもしれない。


 下旬、今秋もオコジョがやってきて2日間遊んでいった。一面の雪の中で遊ぶオコジョの尾の先の黒が、楽しい気持ちを充分に表現していた。ピアノ線の先につけた黒いリボンにも似て、ピコピコ、ヒョーン、ピコピコヒョーンと舞っていた。あたりにとけ込んだ保護色の体を代表して,黒いシッポが物語をいつまでも続けていた。

バックナンバー

profile

  • 竹田津 実

    竹田津 実

    1937年大分県生まれ。岐阜大学農学部獣医学科卒業。北海道東部の小清水町農業共済組合・家畜診療所に勤務、1972年より傷ついた野生動物の保護・治療・リハビリ作業を始める。1991年退職。1966年以来、キタキツネの生態調査を続け、多数の関連著作がある。2004年より上川郡東川町在住。獣医として、野生動物と関わり続けている。

今日の1さつ

毎日をまじめにコツコツ生きるトガリネズミを見ていたら、自分の日常ももしかしてこんなに静かな幸せにあふれているのかも、と思えました。海に憧れて拾ったポスターを貼ってみたり、お気に入りのパン屋さんで同じパンを買ったり。駅中の雑踏やカフェでふとトガリネズミを見かけそうな気がします。(40代)

pickup

new!新しい記事を読む