icon_twitter_01 icon_facebook_01 icon_youtube_01 icon_hatena_01 icon_line_01 icon_pocket_01 icon_arrow_01_r

北の森の診療所だより

第16回

10月 食べる、集める、迎える冬のため

 ダイエットの季節となった。
 天高くのこの時期、それはないだろうといわれるが、なぜか毎年時の行事みたいになっている。ビールのせいだとつぶやくことにしている。反対に全てが実りの時とばかりに、食べに食べ体重を5割も増やす者、また冬じゅうの食集めに精を出す者などで自然は忙しい。まだ原始時代のなごりか、何を食べてもおいしく感ずるこの時期に、ダイエットとは何とも因果なと思ってしまう。そんなわけでもないだろうが、秋は妙に餌集めに熱中する野生をみるのが楽しい。キトウシの山通いが始まる。


 越冬するシマリスのドングリ集めに3日間もつきあう。「朝もよから」という言葉があるが、10月のシマリスにはこの言葉がぴったり。午前6時30分には巣を出て10〜30分おきに帰ってくる。ほほ袋いっぱいにドングリを入れて。右のほほ袋に2コ、左にも2コ、そして余った先方の空間に1コのドングリ。ときどきそれが落ちかかると片手でおさえて巣にもどるのである。


 シマリスの採集は、品質のいいものを選別して運ぶといわれている。そのためにロシアやモンゴルではその能力を利用して、種子集めをする人々がいると聞く。秋の終わりのいい時期に巣を掘り起こして、良質な種子を得るのだそうだ。それを知って、なんと無慈悲なといおうとして口をつぐんでしまった。私もやったことがあると弁解する。調査のため。北海道大学のA教授の手伝いだった。それでも地下1メートルのシマリスのヒミツの越冬巣を知ったと、大満足した。しかしあれは理不尽であったと、思い出すたびに胸がチクリとする。


 そして知床のヒグマのことを思っている。ヒグマは越冬のために自分の体の中に食べものを残す作戦をとる。食べに食べ、体重を5割も増やすといわれている。皮下に脂肪として貯めるのである。木の実、草の実、キノコ、そして今は魚。この生きものも朝もよからと奮闘する。水に飛び込み両手でサケをかかえてむさぼり喰う。夢中な姿は少し悲しげですらある。
 私は秋の味を横目に少し悲しい気持ちになっている。

バックナンバー

profile

  • 竹田津 実

    竹田津 実

    1937年大分県生まれ。岐阜大学農学部獣医学科卒業。北海道東部の小清水町農業共済組合・家畜診療所に勤務、1972年より傷ついた野生動物の保護・治療・リハビリ作業を始める。1991年退職。1966年以来、キタキツネの生態調査を続け、多数の関連著作がある。2004年より上川郡東川町在住。獣医として、野生動物と関わり続けている。

今日の1さつ

子ども視点ではいろいろなパンが登場して楽しく、大人視点では、育児に忙しくお店の管理に手が回らなかったり、野次馬で集まったカラスたちが気まずくてみんなパンを買ってしまうところなど妙にリアルで笑ってしまいました。(4歳・お母さまより)

pickup

new!新しい記事を読む