icon_twitter_01 icon_facebook_01 icon_youtube_01 icon_hatena_01 icon_line_01 icon_pocket_01 icon_arrow_01_r

北の森の診療所だより

第10回

全てがうれしい、4月

 雪が雨になり、また雪になる。小さな気温の変化に合わせる天空の水分は忙しい。4月はそんな月。アトリの群れがワラワラとおりてきて、ババーンと飛び立っていった。ベニヒワが去り、ミヤマホオジロも帰ってゆく。みんなふるさとの北をめざす。北帰行だ。これも忙しい。

 フキノトウが顔を出すと、遅れてなるものかとあたりに春がいっせいに姿を現す。正直なもので、とけだした水も春の顔をしている。北国に住むものには全てがうれしい季節。

 キトウシの山にカタクリを見に出かける。林は赤紫のじゅうたんに埋まっていた。

 気分がよくなって家にとって返し、倉庫のなかから数年前に撮った写真を取り出す。カタクリの近くにそれを飾って春の一日を楽しむことにする。ビールが飲みたくなった。ついでに裏のドイツトウヒの森にも一枚。午後になって、活動時間の長くなったキタリスが鑑賞にやってきた。

 いつの頃からか、里帰りと称して撮った写真を、撮った場所に置いてひとり楽しむ習慣をつけてしまった。ずいぶんまえに、キトウシの林道ぞいの2kmに167枚の大型のパネルを置いて、4ヶ月間、野外写真展をやったことがある。

 一度自然の中から切り撮られたものをもう一度里帰りという形で自然の中に置くと、少し別な顔つきの写真に変化するのがうれしくて、やみつきになっている。困ったことだ。

 カタクリの赤紫に刺激されたのか、林は次々と春を競った。ニリンソウの白い花、エゾエンゴサクの淡い紫と日替わりで主役が交代していたら、ある日、はずかし気に桜花が登場した。やはり春の主役はこの花だと思ってしまう。

バックナンバー

profile

  • 竹田津 実

    竹田津 実

    1937年大分県生まれ。岐阜大学農学部獣医学科卒業。北海道東部の小清水町農業共済組合・家畜診療所に勤務、1972年より傷ついた野生動物の保護・治療・リハビリ作業を始める。1991年退職。1966年以来、キタキツネの生態調査を続け、多数の関連著作がある。2004年より上川郡東川町在住。獣医として、野生動物と関わり続けている。

今日の1さつ

子どもが2歳になり、急にのりものが大好きになりました。この本は同じく車が大好きだった私の弟が小さい頃気に入って毎日読んでいたもので、私も一緒に見ていたのでとても懐かしかったです。もちろん子どももすぐに気に入り、毎日のように寝る前に読んでいます。(2歳・お母さまより)

pickup

new!新しい記事を読む