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北の森の診療所だより

第1回

はじめに

 40年あまり住んだ道東の地から、この地に引っ越してもう12年となる。町役場に勤める知人の案内で土地探しのとちゅう、あの地はどうでしょうと、指さされた雑木林にクマゲラがいた。クマゲラがいた……それだけで決めました。林の中に小さな家を建てる。老いた夫婦には似合いの小さな家で、しかも林の中。満足です。

 

 その年の冬。夜半、ベランダから部屋をのぞく目に会った。タヌキだとすぐにわかった。次の朝、雪に残る足跡を調べる。二頭連れだと知った。足跡は裏山に続いている。どうやら林のかなり奥からやってきているらしい。さっそく、何種かの器具を用意する。まず感知センサー。林の中4カ所に取りつけ、それに対応する受信器を私の部屋に置く。受信器は、それぞれのセンサーに反応して異なるメロディを発するものとした。相手がどの場所を通っているかが、すぐさまわかるようにしたのだ。そしてベランダには、小さなTVカメラを取り付けた。相手が登場すればすぐ、机の上の小さなモニターに映し出されるシステムだ。

 来客のエゾタヌキは病気でした。かいせん病。ヒゼンダニというダニが原因の皮膚病だ。脱毛の症状から、治療しないかぎり越冬は無理と判断。「獣医師の家と知って来たのかしら」とつぶやくカミさんの一言に背中を押されて、私は給仕台を物置から取り出していた。治療には、まず薬を飲んでもらわなくてはいけない。それをしのびこませた食べ物を食べてもらうことからの作業となった。治療用の餌は、適量の場合のみ薬と呼ぶが、多いと毒に化ける。一頭で全てを食べるのは危険だが、反対に足りないと効果はない。予定量の薬の投与が終わるまで一ヶ月がかかった。

 ちょうどその時期。九州に住むファンのひとりですという御婦人から寄付があった。傷ついた動物のために役立ててほしいという。私たちにとっては大金だったので困った。ほんとうに困り果てた。返すといっても受け取ってもらえる雰囲気ではない。そこで、小さな診療所をつくることに決めた。リハビリセンターを兼ねたもので、かつて住んでいた道東の地にも持っていた施設と同様なものだ。名は○○記念病院とはせずに「森の診療所」とした。診療所の東の出入り口に広い待合室がある。その待合室からながめるこの地の自然を患者達と一緒にとどけようと思っています。

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  • 竹田津 実

    竹田津 実

    1937年大分県生まれ。岐阜大学農学部獣医学科卒業。北海道東部の小清水町農業共済組合・家畜診療所に勤務、1972年より傷ついた野生動物の保護・治療・リハビリ作業を始める。1991年退職。1966年以来、キタキツネの生態調査を続け、多数の関連著作がある。2004年より上川郡東川町在住。獣医として、野生動物と関わり続けている。

今日の1さつ

おもしろかったし楽しかったし うーぱーるーぱーとおたまじゃくしとかたつむりがとてもかわいかった。(5歳)

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