icon_twitter_01 icon_facebook_01 icon_youtube_01 icon_hatena_01 icon_line_01 icon_pocket_01 icon_arrow_01_r

北の森の診療所だより

第20回

2月 春を見た、元気を見た

日の出の場所を、毎朝サンピラー(太陽柱)で教えてくれる2月。あたりまえのことだが、春はみんな元気になる。ならなくても元気なふりをするのかもしれない。入院、というより居候と呼ぶ方が正確な患者が、近ごろ元気がいい。隣の部屋から華やかな声、それも大声、しかも笑い(?)声である。その騒々しさに何事かと起き出したら「ゲラッピーですよ」と妻の言。種の平均寿命の5倍も生きて、ほとんど死んだふりをして日々を送っている隻目(せきめ)のアカゲラの声である。近ごろもう1羽の患者は水浴びを楽しみたいとせがむ。


窓ぎわでブーゲンビリアの花が咲き、毎朝アフリカを思い出させる。人の声、鳥の声、虫の声まで聞こえるような気分となる。

そんな朝、テントウムシを見た。春を見たと思ったその日、机の下でムネアカオオアリを見た。クマゲラが大好きなアリだが、どこから出てきたのだろうか。そういえば数日前から庭の木の根っこをつつく姿を何度か見た。その姿にも元気を見た。


机に向かってぼんやり過ごす私を「ちゃんと仕事しなさい」とガラスをたたく、キタリスの来る時間が近ごろ遅くなったと気づいた。そこで今朝は時計を見た。元旦は8時20分だった。キタリスの起床時間は一年じゅうほぼ変わらない。早朝4時台。ところが就寝の時間は1月の始めはほとんど午前9時。日照時間が長くなった分だけ、その時を遅くする。


それを窓ガラスをたたいて私に知らせているのだ。「こんなに日は長くなったのに……」とせかしている。それは残り時間の短さを知らせようとしているかのようだ。「もう充分生きたよ」とつぶやき、相手をするためにベランダの戸を開けた。


太陽は昨日と変わらないと思えるのに、頬にふれる光は昨日より暖かいと感じている。もうすぐ2月が終わる。

バックナンバー

profile

  • 竹田津 実

    竹田津 実

    1937年大分県生まれ。岐阜大学農学部獣医学科卒業。北海道東部の小清水町農業共済組合・家畜診療所に勤務、1972年より傷ついた野生動物の保護・治療・リハビリ作業を始める。1991年退職。1966年以来、キタキツネの生態調査を続け、多数の関連著作がある。2004年より上川郡東川町在住。獣医として、野生動物と関わり続けている。

今日の1さつ

真っ黒な表紙にこれ以上ない直截な言葉「なぜ戦争はよくないか」の表題にひかれ、手にとりました。ページを繰ると、あたたかな色彩で日常のなんでもない幸せな生活が描かれていて胸もホッコリ。それが理不尽な「戦争」によって、次々と破壊されていく様が、現在のガザやイスラエルと重なります。(70代)

pickup

new!新しい記事を読む