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放課後の文章教室

第3回 意見を書く 3

生き生きした言の葉を茂らせる

「書くこと」について、若い人からの質問に、作家・小手鞠るいさんが答えます。

 しっかりと根を張った木がいかに強く、体験と想像にもとづく理解と確信によって選びぬかれたことばがいかに強いか。そして、強い木々が集まってできている森がいかに美しいか。
 そのことを理解していただくために、村上春樹さんの書いた文章を読んでみてください。『海辺のカフカ 上』(講談社)からの抜粋です。

「僕はごらんのとおりの人間だから、これまでいろんなところで、いろんな意味で差別を受けてきた」と大島さんは言う。「差別されるのがどういうことなのか、それがどれくらい深く人を傷つけるのか、それは差別された人間にしかわからない。痛みというのは個別的なもので、そのあとには個別的な傷口が残る。だから公平さや公正さを求めるという点では、僕だって誰にもひけをとらないと思う。ただね、僕がそれよりも更にうんざりさせられるのは、想像力を欠いた人々だ。T・S・エリオットの言う〈うつろな人間たち〉だ。その想像力の欠如した部分を、うつろな部分を、無感覚なわらくずで埋めてふさいでいるくせに、自分ではそのことに気づかないで表を歩きまわっている人間だ。そしてその無感覚さを、空疎な言葉を並べて、他人に無理に押しつけようとする人間だ。つまり早い話、さっきの二人組のような人間のことだよ」

 この作品は小説ですから、意見を主張しようとして書かれたものではないのかもしれません。が、作家は「大島さん」という人物に、自分の意見を語らせています。私はそのように読み取りました(この読み取りもまた、あくまでも私は、ということです)。
 すべての文章に、根が生えています。
 差別とは? という命題が徹底的に考察され、非常に論理的に、筋道を立てて記述されています。「差別」ということばも、確信を持って使われています。
 むだなことばは、ひとつもありません。すべての葉が生き生きと、確固たる意味を持って、枝に茂っています。
 大島さんはこれよりも少しあとで、さらに、主人公の田村カフカに向かって、このように語っています。つまり、作家は大島さんにこう語らせています。

「実にそういうことだ。でもね、田村カフカくん、これだけは覚えておいたほうがいい。結局のところ、佐伯さんの幼なじみの恋人を殺してしまったのも、そういった連中なんだ。想像力を欠いた狭量さ、非寛容さ。ひとり歩きするテーゼ、空疎な用語、簒奪さんだつされた理想、硬直したシステム。僕にとってほんとうに怖いのはそういうものだ。僕はそういうものを心から恐れ憎む。なにが正しいか正しくないか––––もちろんそれもとても重要な問題だ。しかしそのような個別的な判断の過ちは、多くの場合、あとになって訂正できなくはない。過ちを進んで認める勇気さえあれば、だいたいの場合取りかえしはつく。しかし想像力を欠いた狭量さや非寛容さは寄生虫と同じなんだ。宿主を変え、かたちを変えてどこまでもつづく。そこには救いはない。僕としては、その手のものにには入ってきてもらいたくない」

 最後にもうひとつ、アメリカ人女性作家、アニー・ディラードの書いた文章をご紹介します。『本を書く』(パピルス)からの抜粋です。おもに、作家と作家になりたい人たちに向けて書かれた作品です。

手を抜くな。すべてを厳密に容赦なく調べ上げるのだ。一つの芸術作品における細部を厳しく調べ、探すのだ。離れてはいけない。飛び越えてもいけない。わかったようなふりをしてはいけない。徹底して追及し、ついにそのもののもつ独自性と強さの神秘性のなかにその正体を見るまで追い詰めるのだ。

 いかがでしょうか?
 きみの取り上げたテーマ「いじめ」は、徹底して追及するに値するテーマだと、私は思います。佳作になった作文を引き出しの奥から取り出して、今一度、最初から書き直してみてください。

 私の推測では––––
 いじめはいけないと、きみは思っている。いじめはいけないと、だれもが思っているのに、いじめがなくならないのはなぜなのかと、きみは思っている。
 ならば、その理由について考えて、徹底的に考えて、考えたことを容赦なく書くのです。自分が理解していることばだけを使って、生きた葉を枝にびっしりと茂らせるようにして。
 もしもきみがいじめを体験したことがあるのなら、その体験は、どのようなものだったのか。いじめをなくすためには、どうすればいいのか。きみの意見を書いてください。わかったようなふりをしないで、感情論に終わらせないで。

 書くことは、考えることです。
 きみの考えたことに、道筋をつけていくことです。
 筋道をつけて、論理的に書かれた意見は、説得力を持ちます。
 反対意見を持っている人の心にも響きます。ときには、その意見をがらりと変えさせてしまうほどに。
 書き直したきみの作文は、きっと、1ランクではなくて、2ランクも3ランクも上がっているのではないでしょうか。私にはそんな予感がします。

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profile

  • 小手鞠るい

    小手鞠るい

    1956年岡山県生まれ。1993年『おとぎ話』が海燕新人文学賞を受賞。さらに2005年『欲しいのは、あなただけ 』(新潮文庫)で島清恋愛文学賞、原作を手がけた絵本『ルウとリンデン 旅とおるすばん 』(講談社)でボローニャ国際児童図書賞(09年)受賞。1992年に渡米、ニューヨーク州ウッドストック在住。主な作品に、『エンキョリレンアイ』『望月青果店』『思春期』『アップルソング』『優しいライオン やなせたかし先生からの贈り物』『星ちりばめたる旗』『きみの声を聞かせて』など。

今日の1さつ

表紙の絵やとちゅうの絵がかわいいのでレンちゃんや高田さんの気分になれて本の中の世界にすいこまれるのでドキドキハラハラしておもしろかったです。(9歳)

pickup

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