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放課後の文章教室

第4回 体験を書く 4

文章の声

「書くこと」について、若い人からの質問に、作家・小手鞠るいさんが答えます。

––––小手鞠さんに質問です。「文体」って、なんなのですか? というのは、つい最近、ネットサイトに挙げた私の小説作品に対して、「文体がない」というコメントが書き込まれていたのです。何度も推敲して、間違っているところはきちんと直したつもりです。なので、文法はしっかりしていると思うのですが、文体が「ない」って??? 町田市在住の町田まち子(成人済み)。

 町田さん、おたよりありがとうございます。
 文体って、なんなのですか?
 これはまた、とんでもない質問が飛んできましたね(笑)。
 「文体の話をしろ」と言われたら、小説家なら誰でも武者震いするでしょうね。あるいは、腕まくりでしょうか。
 私にとって文体とは、永遠に追い求めているテーマみたいなものです。
 言いかえると私は、文章を書いているとき––––小説でもエッセイでも童話でも、手紙でもメールでもなんでも––––書きながら常に「文体とは何か?」について、考えています。
 それほどまでに気になっているのが、大事にしているのが文体というものなのです。今、このエッセイを書きながらも、文体を強く意識しています。
 町田さんの作品に対して「文体がない」というコメントを寄せてきた人は、もしかしたら、プロの物書きか、優れた読書家か、いずれにしても、たくさんの小説を読んだり書いたりしてきた人に違いありません。

 前置きはここまでにして、文体とは? ですね。
 まず、辞書を引いてみましょうか。

1 文章の特色をなす言語の様式。
2 語句・語法などに現れている、その作者に特有な文章の特色、傾向。スタイル。

(小学館『現代国語例解辞典』より)

 うーん、わかったような、わからないような……ですけれど、「その作者に特有な」というところがポイントなのではないかと、私は考えます。
 私が辞書の執筆者になったとすれば、文体とは読んで字のごとく「文の体」であり、その体の中から響いてくる「文章の声」であると、解説します。
 そう、文体とは「声」なのではないかと、私は思っているわけです。
 登場人物が叫んでいるとか、大声を上げているとか、会話文が多いとか、そういう「声」ではありません。
 かといって「作者の声」というわけでもありません。
 それはあくまでも「文章の声」なのです。
 この「声」は、実際には耳には聞こえてきません。
 朗読すれば聞こえてくるのかと言うと、それも違います。
 文法的に正しく書かれていれば、声が聞こえてくる、というわけでもありません。
 言うまでもないことですが、活字は活字に過ぎません。
 ページの中では、ひたすら沈黙しています。
 この、黙って並んでいるはずの活字を目で追っていると、どこからともなく、聞こえてくる声がある––––。
 これが私の定義する文体です。
 いったいどうすれば、町田さんの文章は、文体を、声を獲得できるのでしょうか。
 その方法は、実のところ、私にもわかりません。
 私の場合、新人賞を受賞した年から数えると、約12年後に「これが私の文体なのかな」と思えるような手応えを感じました。
 『欲しいのは、あなただけ』(新潮文庫)という作品を書いていたとき、声が聞こえてきたのです。書き始めてから9年ほど、推敲に推敲を重ねているさなかに、ふっと。
 主人公の声ではなく、私の声でもなく、それは明らかに文章の声でした。
 それ以来、私は、それぞれの作品に宿る「声」の存在を感じています。
 天才肌の作家であれば、生まれながらにして、独自の文体を持っているのかもしれません。しかし凡人の場合には、努力に努力を積み重ねていくしかない。
 小説家になりたければ、とにかくひたすら、ひたすらとにかく、小説を読むことです。ほかの作家の書いた文章の声に、耳を澄ますことです。
 3時間読んだあとに、30分書く。
 1時間書いたら、4時間は読む。
 読書の「体験」が作家の血となり骨となり声となっていくのです。
 読むことでしか、うまく書けるようにはならないし、読むことでしか、文体の獲得はできない。作家は1冊の本を書くために、100冊の本を読まなくてはならない。
 町田さん、これからは、そんな覚悟で作品を書いていって下さい。
 ある日、突然、自分の書いた文章の中から、かすかだけれど確かに、声が聞こえてくる。そんなすばらしい瞬間が待っているかもしれません。
 私の書いたこのエッセイから、町田さんの耳に届いた声は、あったでしょうか?

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profile

  • 小手鞠るい

    小手鞠るい

    1956年岡山県生まれ。1993年『おとぎ話』が海燕新人文学賞を受賞。さらに2005年『欲しいのは、あなただけ 』(新潮文庫)で島清恋愛文学賞、原作を手がけた絵本『ルウとリンデン 旅とおるすばん 』(講談社)でボローニャ国際児童図書賞(09年)受賞。1992年に渡米、ニューヨーク州ウッドストック在住。主な作品に、『エンキョリレンアイ』『望月青果店』『思春期』『アップルソング』『優しいライオン やなせたかし先生からの贈り物』『星ちりばめたる旗』『きみの声を聞かせて』など。

今日の1さつ

表紙の絵やとちゅうの絵がかわいいのでレンちゃんや高田さんの気分になれて本の中の世界にすいこまれるのでドキドキハラハラしておもしろかったです。(9歳)

pickup

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