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放課後の文章教室

第4回 体験を書く 1

話しことばと書きことばの違い

「書くこと」について、若い人からの質問に、作家・小手鞠るいさんが答えます。

––––小手鞠るいさん、初めまして、こんにちは。
 僕は将来、小説家になりたく、出版社に投稿したりしています。
 でも、なかなかうまくいきません。
 ネットで調べてみたりもしたのですが、プロットの作り方がイマイチよくわかりません。できれば、例文を挙げて教えていただけると幸いですのでよろしくお願いします。それと、起承転結の順序や起承転結そのものにこだわる必要があるのでしょうか? それも合わせて教えてもらえると嬉しいです。よろしくお願いします。
 ちなみに、読書などもして言葉を覚えたり、表現の仕方などを勉強したりしています。

(筆名)遠藤

 小説家志望の遠藤さん、お手紙を下さり、ありがとうございます。
 遠藤さんからの質問にお答えする前に、私の方からいくつか、おたずねしたいことがあります。
 まず、2行目に書かれている「出版社に投稿したりしています」ですが、これは具体的にはどういうことを意味しているのでしょうか。
 「投稿」ということばを辞書で引くと、

新聞、雑誌などへ、掲載を求めて自分の原稿を寄せること(小学館発行の『現代国語例解辞典』による)

1 原稿を新聞社・雑誌社などに送ること。また、その原稿。多く、自発的なものにいう。
2 インターネットで、ウェブサイトへの掲載のため文章や画像を送信すること。(岩波書店発行の『広辞苑』による)

 と、出ています。
 遠藤さんの「投稿」とは、上記のどれに当たるのでしょうか?
 そのすぐ前に「小説家になりたく」––––「なりたくて」が正しいですね––––と書かれているので、おそらく、書き上げた小説の原稿を、どこかの新聞社か、雑誌社に、あるいはウェブサイトに自発的に送った、ということなのでしょう。
 では次に「でも、なかなかうまくいきません」について。
 これは、いったい何が、どういうふうに、うまくいかないのでしょうか。
 投稿したのに、いつまで経っても「作品がなかなか掲載されない」ということ?
 それとも、投稿した作品が掲載されないために「なかなか小説家としての一歩が踏み出せない」ということ?
 あるいは「そもそも、掲載に値するような作品がなかなか書けない」ということ?
 これについては、辞書で調べるわけにはいきませんから、私が勝手に推察するしか、意味をつかむ方法はないですね。

 私の推察によると、遠藤さんは、小説家になりたくて、自分の書いた小説の原稿を出版社(新聞か雑誌の)に、送りつづけている(新人賞に応募するためなのか、誌面や紙面、インターネットのサイトへの掲載を求めてなのかは不明ですが)。しかし、まだ一度も掲載されたことがない。もしくは受賞できないまま、今に至っている。これではなかなか小説家にはなれない。どうすれば、受賞、もしくは、掲載に値する作品が書けるのだろうか––––というようなことが言いたかったのでしょう。
 なんだ、ちゃんと伝わってるじゃない? って思いましたか?
 もしも遠藤さんからの質問が「話しことば」によるもの、つまり、遠藤さんと私のあいだで実際に会話が交わされていたとすれば、あなたの言いたかったことは至ってかんたんに私に伝わったことでしょう。
 たとえば、
 「出版社に投稿してるんだけど、なかなかうまくいかなくて……」
 「へえ、どんな出版社に、どんな原稿を送ってるの?」
 「文芸雑誌を出している出版社のね、恋愛小説の新人賞に応募してるんだけど」
 「そうなの、恋愛小説を書いているのね」
 というふうに。
 しかしながら遠藤さんは今回、私に「書きことば」で、質問を送ってきたわけです。
 となれば、私が辞書で単語の意味を調べたり、勝手な推察をしたりしなくても、すべてがもれなく正確に、伝わるように書かなくてはなりません。

 僕は将来、小説家になりたく、出版社に投稿したりしています。
 でも、なかなかうまくいきません。

 話しことばであれば、これでじゅうぶんです。このあとには、ふたりの会話がつづくからです。書きことばの場合には、これでは不十分です。しかもこれは、日記ではなくて手紙。相手に読んでもらうために、書かれた文章です。
 たかが2行。されどこの「不十分な2行」こそが、遠藤さんの「なかなかうまくいかない」原因になっているのではないかと、私は分析します。

 意地悪なことをいろいろ書いてしまいましたが、ついでにもうひとつ、小説家になりたいあなたに、さらに意地悪な質問を。
 小説家が、何よりも大切にしなくてはならないものとは、なんだと思いますか?
 答えは、わかりきっていますね。
 ことばです。レストランのシェフが、お客さんに喜んでもらえるような料理をつくるために食材を大切にしているように、小説家は、読者に喜んでもらえるような小説を書くために、ことばを大切にしなくてはなりません。
 遠藤さんはこの質問の手紙を書かれたあと、何度、読み返されたでしょう?
 これは手紙であると同時に「あなたの文章」でもあります。
 小説家になりたければ、あなたは常に、自分の書いた文章を、最低でも10回くらい––––あくまでも私の目安ですので、回数についてはあまり気にしないで下さい––––読み返して、そのたびに、直していかなくてはなりません。
 そう、推敲ですね。
 一字一句、一文一文、一行一行を細かく、一段落一段落を暗記するくらい読み直して、これでいいのか、これで正しいのか、これで言いたいことが相手に伝わるか、と、徹底的に検証し、必要とあらば辞書で意味を調べて確認しながら、修正をほどこしていく。場合によっては全文を書き直す。そのような根気のいる作業、骨の折れる仕事を、小説家は毎日、朝から晩までやっている、と言っても過言ではありません。
 これが「ことばを大切にする」ということの実体なのです。
 書かれたことばというのは、話されたことばと違って、それを読んだ人は、何度でも読み返すことができます。だからなおのこと、書かれた文章は論理的で、明晰で、筋道が通っていて、すみずみまで美しく、文法的に正しくなくてはならないのです。

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profile

  • 小手鞠るい

    小手鞠るい

    1956年岡山県生まれ。1993年『おとぎ話』が海燕新人文学賞を受賞。さらに2005年『欲しいのは、あなただけ 』(新潮文庫)で島清恋愛文学賞、原作を手がけた絵本『ルウとリンデン 旅とおるすばん 』(講談社)でボローニャ国際児童図書賞(09年)受賞。1992年に渡米、ニューヨーク州ウッドストック在住。主な作品に、『エンキョリレンアイ』『望月青果店』『思春期』『アップルソング』『優しいライオン やなせたかし先生からの贈り物』『星ちりばめたる旗』『きみの声を聞かせて』など。

今日の1さつ

表紙の絵やとちゅうの絵がかわいいのでレンちゃんや高田さんの気分になれて本の中の世界にすいこまれるのでドキドキハラハラしておもしろかったです。(9歳)

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