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放課後の文章教室

第2回 友情を書く 4

悪口は書かない

「書くこと」について、若い人からの質問に、作家・小手鞠るいさんが答えます。

––––メールを書くのが苦手です。わたしのメールはいつも長すぎるみたいです。どうすれば短く書けるのか、わかりません、短すぎると、つめたい印象がします。あと、友だちから届いたメールに、心がひどく傷つくことがあります。でも、それにどう対抗したらいいのか、わかりません。メールを書くときに気をつけた方がいいことって、ありますか? 東京都、悩める十代の女子大学生より。
 
 悩める十代の女子学生さん、質問のメールをくださって、ありがとうございます。
 長いメール、私は大好きですよ。
 長ければ長いほど、うれしいです。
 だって、長い文章を書くためには、時間も労力もかかりますよね。忙しいのに、時間をかけて、私のために書いてくれたんだと思うと、愛情や友情を感じて、それだけですごくうれしくなります。
 そして、あなたと同じで、時間をかけていっしょうけんめい書いた長いメールに対して、届いた返事があまりにも短くて素っ気ないと、相手から拒否されているのかなって、私もつい思ってしまいます。
 メールの長さについては、受けとった人の好みもあると思うし、受けとった人がそのときたまたま、とても忙しくしていて、長いメールを読む時間がなかったり、めんどうだと思ってしまったり、そういうこともあると思うので、あまり気にしないでください。
 ただ、「了解しました」のひとことで片づく用件であれば、そのあとによけいなことをだらだら書く必要はないのではないか、とも思います。
 さて、あくまでもこれは私のとらえ方ですが、私は「メールと手紙は同じ」と、考えています。かつてはびんせんに向かって手書きで書いていた手紙を、今はパソコンに向かってキーボードで打っている。書き終えたあと、ふうとうに入れて切手を貼ってポストに投函していた手紙を、今は、送信ボタンを押して相手に送っている––––というふうに。
 その前提で、話を進めていきます。
 少し前の回で、私は自分の書く文章に対して、いくつかの決まりをもうけています、という話をしました。
 そのなかのひとつ「ネガティブな表現を避ける」を思い出してください。
 メールを書くときに、何よりも気をつけているのが、このことです。
 ネガティブな表現とは、いったいどんな表現なのでしょうか。
 私の基準では「読んだ人が不愉快になったり、いやな気分になったり、落ちこんだり、傷ついたり、不安を感じたりすることばや文章」です。相手に有無を言わせないような、一方的な批判、一方的な決めつけ、押しつけなども、ふくまれています。憎しみ、嫌悪、うらみ、ぐち、不平や不満なども。あくまでも私の基準ですが。
 もっともわかりやすい例として「悪口」があります。相手に対する悪口はもちろんのことですが、第三者の悪口もふくまれています。
 悪口は書かない。
 かんたんなことのように思えるかもしれませんが、インターネット上には、これがあふれ返っていますね。まさに洪水のように押しよせてきています。汚いことば、醜い表現が、これでもかこれでもかと、垂れ流されている、と言っても過言ではありません。私自身、そのようなことばに不用意に傷つけられて、一日中、暗い気持ちで過ごしている日もあります。汚いことばを目にしたくないので、インターネットの使用時間はできるだけ短くし、必要な作業を終えたら、すぐに切ってしまうようにしています。
 あなたの場合には、友だちから届いたメールに傷つけられた、とのことですから、その傷は、もっと深いものだったに違いありません。
 けれども、意外に思われるかもしれませんが、あなた以上に傷を負っているのは、実はあなたを傷つけるような文章を書いて送ってきた、その人なのです。
 ここで、宮部みゆきさんの書いた文章を読んでみてください。『悲嘆の門』(新潮文庫)という小説の中に出てくる文章です。
 
「わたしの友達みたいなスタンスでいろいろ書き込んでる人は、自分は言葉を発信しただけだと思ってる。匿名なんだし、遠くへ投げてそれっきり。誰かの目にとまったとしても一時的なものだって。それはとんでもない勘違いよ」
「ネットに発信した情報は、ほとんどの場合、どこかに残りますからね」
「いいえ、そういう意味じゃない」
 きっぱりと否定された。
「書き込んだ言葉は、どんな些細な片言隻句でさえ、発信されると同時に、その人の内部にも残る。わたしが言ってるのはそういう意味。つまり< 蓄積する>」
 言葉は消えない。
 
 そうなんです。宮部さんが書いているように、悪口は、書かれた人ではなくて、書いた人の心にこそ残りつづける、棘となって刺さりつづける。言いかえると、傷つけられた人の傷が治ったあとも、傷つけた人の傷は消えない、それどころか、傷から出た毒がどんどんたまっていく、ということなのです。
 だから、もしもあなたが「友だちに傷つけられた」と思うのであれば、その人は「ほんとうにわたしの友だちなのか」と、まず自分に問いかけてみてください。同時に、かわいそうなのは、その人なのだ、と思ってください。その人は、あなたを傷つけたそのことばによって、深く傷ついているのです。自分でも気がつかないうちに。

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profile

  • 小手鞠るい

    小手鞠るい

    1956年岡山県生まれ。1993年『おとぎ話』が海燕新人文学賞を受賞。さらに2005年『欲しいのは、あなただけ 』(新潮文庫)で島清恋愛文学賞、原作を手がけた絵本『ルウとリンデン 旅とおるすばん 』(講談社)でボローニャ国際児童図書賞(09年)受賞。1992年に渡米、ニューヨーク州ウッドストック在住。主な作品に、『エンキョリレンアイ』『望月青果店』『思春期』『アップルソング』『優しいライオン やなせたかし先生からの贈り物』『星ちりばめたる旗』『きみの声を聞かせて』など。

今日の1さつ

表紙の絵やとちゅうの絵がかわいいのでレンちゃんや高田さんの気分になれて本の中の世界にすいこまれるのでドキドキハラハラしておもしろかったです。(9歳)

pickup

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