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放課後の文章教室

第1回 気持ちを書く 5

論理的な文章は美しい  

「書くこと」について、若い人からの質問に、作家・小手鞠るいさんが答えます。

 さて、思い出していただけましたか?
 頭にインプットしてください、とお願いしておいた「論理的」という言葉です。
 感想文の書き方についてお話ししてきたのに、最後になって私は、こむずかしい論文の書き方について、あなたに話そうとしているのでしょうか。
 そうではありません。
 まず「論理」という言葉を辞書で引いてみましょうか。そこには、こんな説明が出ています。

【論理––––議論、思考、推理などを進めてゆくすじ道。ものごとのなかにある道理、事物間の法則的なつながり】

 覚えておいてほしいのは「すじ道」という言葉です。
 論理=すじ道、である、とひとまず思ってください。つまり、論理的に書く、ということは、すじ道に沿って、あるいは基づいて書く、ということなのですね。
 あなたの目の前にのびている、1本の道を思い浮かべてみてください。道をはずれて、うろうろしたり、あっちへ行ったり、こっちへ行ったりするのではなくて、その道をまっすぐに進んでいくのです。逆のたとえを使うと、ごちゃごちゃしている迷路を思い浮かべてみてください。すじ道とは、迷路ではない、ということです。
 感想文を論理的に書くための「すじ道」とは、いったいどのような道なのでしょうか。かんたんにまとめると、こうなります。
 
 (1)本を読み始めたとき、あなたが感じたこと。その理由。
 (2)作品のあらすじをできるだけ短く、すっきりとまとめる。
 (3)読み終えたとき、あなたが想ったこと、あなたの気持ち。
 
 順番は気にしなくてかまいません。どれが最初に来てもだいじょうぶ。組み合わせもあなたの自由です。3つが全部、そろっていなくてもいい。あらすじのくわしい説明も、無理にしなくていい、という話はすでにしましたね。
 とりあえず、この3つを感想文の大きな柱にして、書いてみてください。
 論理的に書く、ということはすなわち、わかりやすく書く、ということです。
 そして、私のいちばん言いたいことは、論理的な文章はわかりやすくて美しい、ということです。
 感想文もまた、論理的に書けば、美しい作品になりえます。美しい作品は、人の胸を打ちます。美しい花を目にしたとき、人はだれでも「ああ、きれいだなぁ」と、見とれます。うっとりします。つまり、感動します。
 それと同じように、あなたの書いた感想文がだれかの胸を打つ、本を読んであなたの感じたことが、あなたの気持ちが、だれかに伝わって、だれかを感動させることができる。これって、すばらしいことだと思いませんか?
 論理的に書かれている、美しい感想文を紹介してみましょうか。
 女優の小泉今日子さんの解説文。(1)と(2)の一部と(3)です。
 
 思春期の頃、母親の存在を疎ましく思った。初めて恋をした頃だった。恋するという感情が嬉しいような恐ろしいような気がしていて、何かのせいにしたかったのだと思う。自分の中には母親と同じ血が流れていて、だから恋なんかするんだ、全てお母さんのせいなのだと変な理屈で恋心を納得させようとしていた。
 本書の主人公・鈴子にとっても母親は天敵のような存在で、母からいつも逃げたいと思っていた。そして結婚に猛反対した母を捨てるような気持ちで誠一郎と一緒になったのだ。<以下、中略>

 過去の記憶を過ぎたことと忘れてしまえればどんなに楽かとよく思う。記憶は塗り変えることが出来ないから厄介で、いつまでも胸を締め付ける。思春期の頃に母親に投げかけた醜い言葉がふとした時に生々しく心の中に甦って居たたまれないような気持ちになることがある。
 ただ、記憶は塗り変えられないけれど、新しい記憶を育むことは出来る。停電の中で鈴子は、結婚前に再会した隆史が時間を超えて果たしてくれた約束を思い出す。それは、母から誠一郎へと旅立つ鈴子の背中を強引に押してくれた、誰にも言えない秘密の思い出だった。記憶は人の心を締め付けることも温めることも出来る。誠一郎との暮らしの中で育まれてゆく静かで豊かな幸福な時間は、鈴子の母への思いを少しずつ和らげてくれる。物語の最後で交わされる母娘の電話の会話はとっても可愛くて微笑ましかった。本を閉じた後、母親に会いたくなって車を実家に走らせた。

  中公文庫『望月青果店』解説より

 あなたは今、「文章を書く」という、すばらしいできごとのドアの前に立っています。さあ、ドアをあけて、なかに入ってきてください。
 ようこそ、放課後の文章教室へ。
 お楽しみはこれからですよ。何しろ、三度のごはんよりも書くことが好きな私ですからね。話し出したら止まりません。
 あなたが今年の夏、どんな本を読んで、どんな感想文を書いたのか、感想文を書くのがおもしろかったかどうか、感想文に対するあなたの気持ちに変化があったのだとしたら、それはどんな変化だったのか、ぜひ私に教えてください。
 あなたからのお返事、楽しみに待っています。

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profile

  • 小手鞠るい

    小手鞠るい

    1956年岡山県生まれ。1993年『おとぎ話』が海燕新人文学賞を受賞。さらに2005年『欲しいのは、あなただけ 』(新潮文庫)で島清恋愛文学賞、原作を手がけた絵本『ルウとリンデン 旅とおるすばん 』(講談社)でボローニャ国際児童図書賞(09年)受賞。1992年に渡米、ニューヨーク州ウッドストック在住。主な作品に、『エンキョリレンアイ』『望月青果店』『思春期』『アップルソング』『優しいライオン やなせたかし先生からの贈り物』『星ちりばめたる旗』『きみの声を聞かせて』など。

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おかしがたくさん、おいしそうに描かれており娘は楽しそうに読んでおりました。親の私は、前作では小さな子どもだった4羽の子がらす達が大人になり、独立していく姿に感動して涙が出ました。(2歳・お母さまより)

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