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放課後の文章教室

第1回 気持ちを書く 4

ハワイの空と太陽の色

「書くこと」について、若い人からの質問に、作家・小手鞠るいさんが答えます。

 ふたつめは、漫画家のまきむらさとるさんの書いた文章です。
 
 あ〜あ、いいなあハワイ。
 日本だって「島」なのに、海だらけなのに、全然違う。いやいやいや、そうでもない。気の持ちようで三浦海岸だって房総の海だって、海は海。いやいやいやいや、やはり空が違うでしょう。夕暮れ時の、あの、空じゅうにピンクゴールドの光が回って、光のボウルの中にいるような、永遠の空。昔行ったハワイの夕暮れ時を想い出しちゃいました。
 そんなステキな空を見上げることが大好きアユは、九死に一生を得た黒猫ミッドナイトと暮らすキュートな女の子。
 
 愛にはいろんな形があって、いい。
 愛は、ひとつの型にはまるものじゃない。
 愛は、自由なもの。
 
 アユは恋人シャークとも拘束し合わない自由な恋愛関係にある。週末をスィートに過ごしても決して泊まらないという、キリリとした自由を守っている。そして「日曜日の恋人」ギャレットを渇望しているが結ばれない。

   徳間文庫『恋するからだ』解説より

 この解説文(=感想文)を私が解説すると、こうなります。
 (1)かつて行ったことのあるハワイについて書く=作品の舞台と人物の紹介。
 (2)主人公の、愛に対する思い=作中の言葉を3行、引用して紹介。
 (3)その思いを裏づけるような形であらすじを短く紹介し、人物関係を紹介。
 槙村さんも、わずか13行で、実に多くのことを伝えてくれています。なおかつ、とてもわかりやすく。それは、3つのステップを踏みながら、紹介を積み重ねていっているからです。 
 舞台と人物の紹介。引用。あらすじと人物関係の説明。どれも短く。
 どうですか? 
 これなら、わたしにもうまく書けそうって、思っていただけたでしょうか?
 
 3つめ。作家のおおさきよしさんの文章です。
 
 太陽を直視すると目がつぶれると教えられた。まだ当時は純情な北海道の少年だった私は、それを真に受けて太陽を見ることを恐れた。それでも外で遊びまわっていると、太陽の光はいつも驚くほどに身近にあって、そして芝生の上に寝転がっては太陽を直視することに挑んだ。恐れながら、しかし挑んだ。
 『欲しいのは、あなただけ』というきわめてストレートで情熱的な題名の本書を読みおえたとき、私の脳裏の片隅に真っ先に思い浮かんだのが、直視しようとしてできなかった太陽の、まぶたを透過してくる光の色であった。
 太陽に向かって目をきつく閉じると、まぶたのスクリーンは鮮やかな真紅におおわれる。そして、少しずつ閉じる力を緩めていくにつれて、色は少しずつオレンジからレモンへ、レモンから白へ変化していく。その幸せな感触を思い出した。
 本書を読んでいる間に脳裏を覆った色は、情熱的でありながらどこかかなしみをたたえた、なんとも鮮やかなだいだいいろであった。しかもその色はパレットに落としたものではなく、太陽という決して直視してはいけないものに目を向けてこそはじめて体感することができる、そういう危うさをはらんでもいた。

  新潮文庫『欲しいのは、あなただけ』解説より

 あなたは今、「大崎さんはあらすじをまったく書いていない」と思っていませんか? 
 半分は、正解です。少なくとも、ここまでを読んだだけだと、この作品の舞台も登場人物もストーリーもわかりません。
 そのかわりに、ひじょうにくっきりと、わかることがあります。わかる、というよりも、見えてくる、と言ったほうがいいでしょうか。
 あなたの目にも、見えてきませんか?
 太陽の色。大崎さんが少年時代、直視すると目がつぶれると教えられながらも、恐れながら見ることに挑んだという太陽の色です。この作品の色はそんな太陽の「なんとも鮮やかな橙色だった」と、大崎さんは書いています。
 あらすじの説明は、いっさいなされていない。けれども、この作品がどんな作品なのか、どんな人物が出てきて、どんなことが語られるのか、じわじわと興味がわいてきませんか? この作品の持っている気配、あるいは、太陽熱のようなものを感じたせいで。
 あらすじを書かないかわりに、作品の「色」について書く。これもまた、あらすじの書き方のひとつであると言えるでしょう。
 色にこだわらなくてもかまいません。形でもいいし、手ざわりでもいいし、空気でもいいし、香りでもいいし、作品のなかを吹きぬけている「風」について、書いたっていいのです。あなたがその風を頬で、体で、感じたのであれば。
 感じたことを、感じた理由を、頭で考えて書くのです。そう、にね。

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profile

  • 小手鞠るい

    小手鞠るい

    1956年岡山県生まれ。1993年『おとぎ話』が海燕新人文学賞を受賞。さらに2005年『欲しいのは、あなただけ 』(新潮文庫)で島清恋愛文学賞、原作を手がけた絵本『ルウとリンデン 旅とおるすばん 』(講談社)でボローニャ国際児童図書賞(09年)受賞。1992年に渡米、ニューヨーク州ウッドストック在住。主な作品に、『エンキョリレンアイ』『望月青果店』『思春期』『アップルソング』『優しいライオン やなせたかし先生からの贈り物』『星ちりばめたる旗』『きみの声を聞かせて』など。

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100かいだてシリーズのおかげで50までしか数えられなかった娘も楽しみながら100まで数えられるようになりました。「かめのおばあちゃんはなんかい?」「100!」本に感謝です。(読者の方より)

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