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放課後の文章教室

第1回 気持ちを書く 3

あらすじは秘密のドア

「書くこと」について、若い人からの質問に、作家・小手鞠るいさんが答えます。

 ここからは、あらすじの書き方について。
 その前に、あなたからの質問「感想文には絶対、あらすじがあったほうがいいですか?」にお答えしましょう。
 はい、あったほうがいいです。
 でも「絶対」ではないです。絶対ではないですが、やっぱりあったほうがいい。
 なぜあったほうがいいかと言うと、あなたの書いた感想文を読んでくれる人が全員、あなたの読んだ作品を読んでいるとは限らないからです。だからといって、その作品の内容や登場人物やストーリー展開やテーマなど、何もかもを書く必要はまったくありません。そんなことをしていたら、あなたも書いていたように、あらすじだけで感想文が終わってしまいます。あらすじだけが書かれている感想文は、感想文とは呼べませんね。それは、あらすじの紹介文になってしまいます。
 じょうずなあらすじの書き方のポイントは、その作品を読んでいない人にも、あなたの感想文をおもしろく、興味深く読んでもらえるように書くこと。あなたの感想文を読んだあとに、あなたの取り上げている作品を「ぜひ読んでみたい」と思ってもらえたら、大成功ということになります。
 うまいなぁ、と、私が感心した感想文を3つ、ご紹介しましょう。
 どれも文庫本(著者は私)の解説です。どれも解説の冒頭の部分です。
 ひとつめは、詩人で絵本作家で漫画家で、アンパンマンの生みの親でもある、やなせたかしさんの書いた文章。 
 
 第1章の「サムシング・ブルー」を読みはじめてぐに絵本のような小説だと思った。
 主人公の八木雪香のニックネームはシロヤギ。アメリカ留学中にマンハッタンのブライアント・パークで「夢見るベンチ」と名づけているベンチに先客があって絵を描いている。彼のニックネームはクロヤギである。運命的な巡りいからクロヤギとシロヤギはやがて恋に落ちる。ほとんどこれはメルヘンである。
 日本に帰ったシロヤギはクロヤギが忘れられないまま不本意なお見合いをする。当日お見合いの相手は約束の時間におくれ、さらにいっしょにいった映画館で眠りこけてしまう。もちろんお見合いは失敗。
 このさりげない第4章「遅れてきた人」は小説のラスト近くになって意外なかたちで再登場してきてもう一度遅れる。これ以上書くとこの巧妙な小説の秘密のドアを開けてしまうことになるので書けない。

  新潮文庫『レンアイケッコン』解説より

 最初の段落に、やなせさんがこの作品を読み始めてすぐに感じたことが書かれていますね。いちごのショートケーキをひと口、食べて思ったこと。「絵本のような小説だと思った」––––たった一文なのに、読者の心には、あざやかな印象が残ります。「絵本」という一語が、ショートケーキの上にのっかった、色あざやかないちごを思わせます。
 そのあとにつづくふたつの段落で、登場人物と作品の舞台とストーリーが説明されています。行数で言うと、わずか7行。7行しか書かれていないのに、実にたくさんのことがわかりますね。
 2段落めの最後の一文にも注目してください。「ほとんどこれはメルヘンである」––––これも、やなせさんの感想です。あらすじの説明のなかに、このようにさりげなく短く、感想が折りこまれています。
 そして、4つめの段落。ここでは「意外なかたちで再登場」と「巧妙な小説の秘密のドア」という言葉に注目してください。
 こんなことを書かれたら、だれだって、「どんな形でふたたび登場するの?」「秘密のドアって、いったいどんなドア?」と、興味がわくことでしょう。しかもやなせさんは、これ以上、あらすじは書けない、と書いている。うまいなぁ、と私が思ったのはまさにここです。
 そうなのです。無理してあらすじをくわしく書こうとしなくてもいいのです。
 あなたが「ここから先は書けない」と思ったら、うまく書こうとして悩むのではなくて、書けない理由をよく考えて、「書けません」と書いたらいいのです。

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profile

  • 小手鞠るい

    小手鞠るい

    1956年岡山県生まれ。1993年『おとぎ話』が海燕新人文学賞を受賞。さらに2005年『欲しいのは、あなただけ 』(新潮文庫)で島清恋愛文学賞、原作を手がけた絵本『ルウとリンデン 旅とおるすばん 』(講談社)でボローニャ国際児童図書賞(09年)受賞。1992年に渡米、ニューヨーク州ウッドストック在住。主な作品に、『エンキョリレンアイ』『望月青果店』『思春期』『アップルソング』『優しいライオン やなせたかし先生からの贈り物』『星ちりばめたる旗』『きみの声を聞かせて』など。

今日の1さつ

表紙の絵やとちゅうの絵がかわいいのでレンちゃんや高田さんの気分になれて本の中の世界にすいこまれるのでドキドキハラハラしておもしろかったです。(9歳)

pickup

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