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放課後の文章教室

第1回 気持ちを書く 2

気持ちを頭で考えて書く

 「書くこと」について、若い人からの質問に、作家・小手鞠るいさんが答えます。

 以下に紹介するのは、作家のなかひいらぎさんが書いた感想文です。
 正確に言うと、感想文ではなくて、文庫本(私の書いた作品)の最後についている「解説」です。読書の好きなあなたなら、一度ならず何度も、読んだことがあるでしょう。文庫の解説は、作家の書いた感想文のようなもの。そう思って、読んでみてください。
 
 なんだろう、かなしい。
 最後のページの、最後の言葉を読み終えたとき、そう思った。
 ふいに、涙がこぼれた。
 どうして泣くのか、私の中にある感情が、なんなのか、あえて考えずにいようと思った。ただ、ただ、かなしい。それでいいじゃないか、と。
 読後の余韻を、しんと静かな心で味わいたかったのだ。
 読んでいるあいだ、私のからだは、小手鞠るいさんのつむぎだす言葉でいっぱいになった。ほとんどすきもないほどに。
 そして、あふれそうになった。
 泣いたのは、つまり、最後の最後で、作者の言葉が涙となって、私の目から溢れた、ということなのかもしれない。

新潮文庫『好き、だからこそ』解説より

 いかがですか?
 野中さんの、この作品に対する気持ちがあふれていると思いませんか?
 冒頭の「なんだろう、かなしい」という言葉に、まず注目してください。
 いちごのショートケーキを食べ終えたとき、あなたが「ああ、おいしかった!」と感じたのと同じように、野中さんはこの本を読んで「なんだろう、かなしい」と感じた。感じたことをまっすぐに、飾り気のない言葉で、書き記しています。そしてそのあとに「どうして泣くのか」「私の中にある感情が、なんなのか、あえて考えずにいようと思った」と書いています。
 今、あなたは「あれっ?」と思ったでしょうか? 
 思って当然です。
  なぜなら私はあなたに、ケーキがおいしいと感じた、その理由を頭で考えて書きなさい、と、お話ししたばかりだからです。
 実はここがとても重要なところなのですが、野中さんは、悲しいと感じた理由をしっかりと考えた上で「考えずにいようと思った」と書いている、ということなのです。
 その証拠に、「考えずにいようと思った」理由が、そのあとに説明されていますね。「読後の余韻を、しんと静かな心で味わいたかった」から、考えずにいたのだと。
 すべて頭で考えて、自分の気持ちを分析しているわけです。その分析の結果として、野中さんはこの作品を読んで泣いた理由をつきとめています。
 これが、私が先にあなたにお話しした、本を読んで感じたこと、思ったこと、自分の気持ちを「頭で考えて書く」ということなのです。
 くり返しになりますが「気持ちを書く」ということは、気持ちをそのまま書くことでは全然なくて、その気持ちについて、頭で考えてから書く、ということ。
 実のところ、気持ちをそのまま書く、なんてことは、不可能なことなのです。ときどき「思ったことをそのまま書けばいい」などと指導している記述を見かけますが、思ったことをそのままを書くと、たいへんなことになります。たとえば今、私が思っていることは「このエッセイを書き上げたら、ランニングに行って、帰ってきたらランチをつくって食べよう」「ああ早く仕上げて、解放感を味わいたいなぁ」「きのう食べたあの店のピザはおいしかったなぁ」……こんなこと、そのまま書けないでしょう?
 頭で考えて書く、ということはすなわち、論理的に書く、ということでもあります。
 論理的に書く?
 なんだかむずかしそうって、あなたは思ったかもしれません。
 私も初めてこの言葉に出会ったとき、同じことを思いました。本当はちっともむずかしくないのです。
 今はただ、「論理的」という言葉を、頭にインプットしておいてくれるだけでいいです。あとで、もっと具体的に、わかりやすく説明しますから。

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profile

  • 小手鞠るい

    小手鞠るい

    1956年岡山県生まれ。1993年『おとぎ話』が海燕新人文学賞を受賞。さらに2005年『欲しいのは、あなただけ 』(新潮文庫)で島清恋愛文学賞、原作を手がけた絵本『ルウとリンデン 旅とおるすばん 』(講談社)でボローニャ国際児童図書賞(09年)受賞。1992年に渡米、ニューヨーク州ウッドストック在住。主な作品に、『エンキョリレンアイ』『望月青果店』『思春期』『アップルソング』『優しいライオン やなせたかし先生からの贈り物』『星ちりばめたる旗』『きみの声を聞かせて』など。

今日の1さつ

カタカナの名前のキャラがたくさん出てきて、展開も早いので、とても面白いとスラスラよんでいます。この文字の大きさは初めてのチャレンジでしたが、絵本→少し大きめの文字の本→ときて、少し大人の文庫本としてチャレンジするのにとても良かったです。(7歳・ご家族より)

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