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作家が語る「わたしの新刊」

赤ちゃんと一緒にぼっかんと産まれた
絵本『あかんぼっかん』

人組の絵本作家ユニット、ザ・キャビンカンパニーさんは、現在人気急上昇中の、注目作家です。そのおふたりの最新作は、山ができる様子を赤ん坊を通じて描いた絵本『あかんぼっかん』。地元大分県を拠点に、全国各所での展覧会や、絵本制作、ワークショップなど、幅広く活動するおふたりに、新刊が生まれるまでのお話をうかがいました。

 ––––今回の新作『あかんぼっかん』は、おふたりのこれまでの作品とくらべても、よりエネルギーのみちた、迫力のある絵本となりました。どのようなきっかけから生まれたのでしょうか?

 『あかんぼっかん』を思いついたのは、熊本地震でグラグラゆれる分娩台の上でした。赤ちゃんと一緒にぼっかんと産まれた絵本です。

 私たちは九州の大分県で作品を作りながら暮らしている、絵本作家夫婦です。九州には活発な火山が多く、震災以前から担当編集の方に「火山の物語を描かないか」とお話をいただいていました。しかしそのころ、阿蘇山がたびたび噴火しており、その風評被害で阿蘇の観光客が激減していたのです。阿蘇の商店街には、友人がたくさんいるので、みんなが苦しむ姿を見て、火山を絵本にする難しさを感じ、なやんでいました。

おふたりがアトリエにされている大分の廃校。ここで『あかんぼっかん』も生まれました。

 そんななか、吉岡が妊娠し、2016年4月の熊本地震のさなかに出産しました。分娩台の上がグラグラゆれて、スマートフォンの緊急地震速報が鳴ると、陣痛のピークがやってきます。まるで地震の波と、陣痛の波がシンクロしているかのようでした。
「だから<地震は地球の胎動>といったりするのか……」
 意識がもうろうとするなか、二人でそう会話したのを覚えています。この体験がきっかけで、絵本の物語はあっという間にできあがりました。頭で考えるのではなく、心の中から湧き上がったような感覚でした。

地震の場面。「どおん どどど どどどどどどど だいちが ゆれる。びりびり くる。なんだ? なんだ?」

 熊本地震の被害はとても大きく、阿蘇や大分の由布院でも、瓦が崩れブルーシートでおおわれた家が何軒も連なっていました。またお店を続けられなくなった友人や、家に帰れず車中泊を余儀なくされた友人もいて、身近な町や人が被災したという現実をあらためて突きつけられました。
「自然災害と本気で向き合わなければならない」
 私たちは、そう実感し、この絵本は自分たちにとって、描かなくてはいけない大切なものなのだと強く思いました。

 今回の『あかんぼっかん』の制作は、こんなふうにして始まったんです。

––––絵本を描くにあたり、取材もなさったとうかがいました。

 はい、絵本の参考にしたのは阿蘇山です。熊本の阿蘇火山博物館へうかがうと、研究者の方がていねいに解説してくださり、火山と暮らすことの大変な面、恩恵の面を教えてくれました。

 私たちが何気なくのっかっている地球は、ただの石の塊ではありません。生きて動くエネルギーの塊です。地球で生きていく以上、私たちはそのエネルギーと、どう共存していくかを考えなければなりません。それはこれから一緒に暮らしていく、生まれたばかりの自分の赤ちゃんとも同じだと感じました。

大地はやがてふくらみ、大きなあかちゃんが生まれた! 象徴的な場面。

––––本作を描くにあたって、工夫された点や、苦労した点はどのようなところでしょうか。

 工夫した点は、巨大な赤ちゃんを、どれだけかわいらしく描けるかということです。お尻がチャームポイントです。苦労した点は、構図です。一冊を通じて舞台が変わらないので、なるべく色々な構図を描いて、単調にならないようにと、ふたりでアイデアを出しあいました。

––––今回、これまでの作品と描き方が変わったようで、おふたりの新境地という印象を抱きました。 

 今まで描いた絵本のなかでも、いちばんエネルギーが充満している絵本にしたかったので、きれいにていねいに描くのではなく、筆跡や、かすれ、しぶきなど、意図せずについた絵の具の跡をなるべく残そうと思いながら描きました。最初の地震のシーンなどは、体を動かしながら踊るように描いたんです。出産と大地震が重なるという、人生でもう二度と起こらないような稀な出来事を体験し、心が大きく震えたときに描いたお話なので、必然的に描き方も変化したのだと思います。どんな絵本になったのか、ぜひ読んでいただけるとうれしいです。

––––お子さんがお生まれになってから、おふたりの環境は変わりましたか。

 赤ちゃんエネルギーおそるべしでした。竜巻のように、子どもと一日ぐるぐるぐるぐるしていると、すぐに24時間が終わります。前よりがんばって仕事しなきゃいけません! ぐえぇ~

生まれた赤ちゃんは、けむりをはきあげ、泣きつづけますが、その涙にはいいことも! この絵にも子育ての体験が反映されているのでしょうか。

––––どうもありがとうございました。お子さんと3人になった(笑)、ザ・キャビンカンパニーのこれからのご活躍を期待しています。

ザ・キャビンカンパニー 
阿部健太朗・吉岡紗希夫婦による絵本作家ユニット。1989年大分県生まれ。大分大学教育福祉科学部卒業後、地元大分県を拠点に、全国のギャラリーやショップにて展覧会、絵本やイラスト、ワークショップ等、様々な分野で幅広く活動している。TURNER AWARD2010未来賞、第7回日本童画大賞準優秀賞受賞。現在、廃校となった小学校をアトリエに改装して日々制作中。おもな絵本に『よるです』『ハテナはかせのへんてこいきものずかん』(ともに偕成社)、『だいおういかのいかたろう』(鈴木出版/2015年日本絵本賞読者賞)、『しんごうきピコリ』(あかね書房/2018年日本絵本賞読者賞)、『ボンボとヤージュ』(学研プラス)、『ほーほー』(小学館)などがある。

●ホームページ http://cabin8cabin.web.fc2.com

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