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絵本作家の「こどもとあそぶ」

第5回

からだで絵本を読む〈舘野 鴻〉

子どもの本の作家の方に「こどもとのあそび」を教えてもらう連載。第5回は、うつくしい細密画と静かな文体で、生物のめぐる命を描きだした絵本『しでむし』『ぎふちょう』を発表し、最新作『つちはんみょう』で、小学館児童出版文化賞を受賞された、舘野鴻さんです! 描き下ろしの絵とともにお楽しみください。

 私は現在、絵本の仕事が中心になっていますが、振り返ると、子育て中はそれほど積極的に絵本の読み聞かせはしていませんでした。その頃、私自身が絵本にあまり興味がありませんでした。それでも時折、シンプルな内容の絵本を一緒に読んで楽しむことはありました。シンプルなものは解釈が自由な場合があり、キャラクター設定や状況設定を勝手に変えて、子どもと一緒にデタラメな読み方をしましたが、まともに絵本を読むよりずっと面白かった。絵本をどう読むかは読者の自由ですし、勝手でいいわけです。

 ものごとは、自分の体験した感覚に結びつけて理解することが多いと思います。私が子どもと遊んでいた頃は、準備された人工物で遊ぶより、準備されていない野良の自然物から遊びを探しました。その内容は「食べる」ということが中心です。道端から雑木林、奥山、沢や海などの水辺、どこにでも食べられるものは見つかります。草だけでなく魚やキノコ、虫に至るまで食べるものはあります。それは私自身が体験的に覚えてきたことが多いのですが、知らないこと、やったことがないことは山ほどあります。どんぐりを加工して何種類かのお菓子を作ってみたり、春の七草を摘みにいったり、器や弓矢などの工作材料にするために、管理を手伝っている竹林に竹を切りにいったり。もちろんタケノコも採って食べます。近くの漁業権のない川でウナギやナマズを狙って置き針をすると本当に大きなものが獲れました。

 我が家は2014年に薪ストーブを購入しましたが、そうなると薪を作らなければなりません。薪を割ると、カミキリムシなどの幼虫がころころと大小たくさん出てきます。これはテッポウムシと呼ばれます。中学生の末っ子はよく薪割りを手伝ってくれますが、作業が終わるとテッポウムシは私たちのおいしいおやつになります。野良には探す、考える、作る、使う、食べるまで、生きるために必要なことのほとんどがあるように思います。もちろん、危険も伴いますが、これこそ重要で、危険を意識することは生きる上でとても大切なことだと考えています。

 都市部だとなかなかできない体験ですが、郊外に住む私たちのこうした体験は、子どもたちにとって忘れられない思い出としてからだに残っているようです。もう子どもたちは大きくなり一緒に遊ぶこともなくなりましたが、子どもと共にたくさんの新しい経験をして、共に新しい発見と驚きを体験したことは私自身の財産です。知らないことが多いということは、これから新しく新鮮な発見が待っているということ。これは豊かなことです。

 情報を寄せ集めて知ったつもりになっても、からだを通したことでなければ知っているということにはなりません。思考は脳みそだけでなく全身でするものです。ものをよく見る、知る、考える。大人も子どもも、そうした意識を持って丁寧に過ごすことは、今日からでもできますね。野良でなくても体験できることはたくさんあります。

 絵本を読む人はさまざまです。読む人のからだ次第で、絵本の読み方も違ってくるでしょう。絵本は子どもから大人まで気軽に楽しめるものですが、作る側はさまざまなことを考え抜いて作っています。お手元にある絵本の読み方も、まだまだたくさんあると思いますよ。


舘野 鴻
1968年神奈川県横浜市生まれ。札幌学院大学中退。幼少時より、画家熊田千佳慕氏に師事。1986年北海道に渡り昆虫を中心に生物の観察を続けるが、演劇、音楽に出会い舞台に上がる。1996年に神奈川県に移ってから本格的に生物画の仕事を始め、図鑑の絵などを手がける。絵本に『しでむし』『ぎふちょう』『つちはんみょう』(偕成社)、『こまゆばち』(澤口たまみ・文)『なつのはやしのいいにおい』(音館書店)、生物画の仕事に『ニューワイド学研の図鑑生き物のくらし』『ジュニア学研の図鑑魚』(学習研究社)、『世界の美しき鳥の羽根鳥たちが成し遂げてきた進化が見える』(誠文堂新光社)などがある。

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